92話 私が欲しいのは、「自分の身を守れる力」
メルから魔力の話を聞き、私が向かった場所。
「アルバートさん!」
「チヒロ?どうした、そんなに慌てて。」
向かった場所は、もちろん企画宣伝課のオフィス。
他のメンバーも、私のあまりの勢いに振り返った。
よかった。
アルバートさん、オフィスにいたよ。
「魔力について、教えてもらいたくて。」
「魔力について?」
「メルに聞きました。もしかしたら、私も魔法を使えるようになるかもと。」
私の言葉に、みんなどこか思い当たることがありそうだった。
「なるほどね。いつかは話そうと思っていたんだけど、まぁいいかな。はい、それじゃあ、僕と…ネロ以外は仕事に戻るように。フェリシア、あと頼むね」
「そういって、サボりの口実が出来たと思っていませんか?」
「なんで、俺まで」
アルバートさんの言葉に、フェリシアさんとネロは文句を言う。
「いやいや、そんなこと思ってないさ。あと、ネロはいいからついて来て。会議室で話そうか。」
最近、会議室は大活躍だなぁ。
そんなことを思いつつ、私は奥の方へと向かった。
会議室に入り、席に着く。
アルバートさんが、対面に座り、ネロは私が抱いて、そして横に座らせた。
「さて、魔力について、知りたいんだよね。メルーレ王女からは、どこまで聞いたんだい?」
「私にも魔力の源である、気というものが流れていると。魔法の習得の可能性があると聞きました。私は、いままで魔法のない世界からやってきたので、私には使えないと思っていたんですけど、異世界転移しても、人族でも魔法は使えると聞きました。なので…」
「それを聞いて、チヒロは魔法を習得したくなったということかな?」
アルバートさんは、真剣に問いかけてきた。
私は、ネロの方をちらりと見る。
すると、ネロと目が合った。
ミシュティでは、魔物に襲われたとき、助けられてしまった。
今は、旅行者ステータスがEランク。
Eランクでも、私は自分の身を守れなかった。
今後、旅行者ステータスが上がって、別の旅行先に行ったとき、私は、周りの人に助けてもらうしか、生き残る方法がないなんて、そんなの絶対嫌だ。
せめて…
私は、アルバートさんの方に向き直り、はっきりと告げる。
「はい。私は、自分の身を守れる力が欲しいです。」
ネロは、私の言葉に息をのむ。
そして、アルバートさんは、面白そうに、にっこりと笑った。
「ほう。戦う力はいらないの?」
「欲を言えば、人を守れる力も欲しいんですけど、私の周りは現状、私の助けがいらないくらい、強そうなので…。だから、まずは自分の身を守れるようにして、周りにフォローしないといけないと、思わせないようにしたいです。」
戦っている姿は知らないけれど、みんな一人で旅行に行って、生き残って帰ってきている。
ネロもミシュティでは、自分の身を守って、なお私のことを助ける余裕があったし。
「よろしい。その覚悟を忘れないように。」
「はい。」
「ネロも先生として付き合ってあげてね。チヒロと一番多く一緒にいるのは、ネロだろうから」
「…わかった。」
アルバートさんは、私の決意を聞き、大きく頷いた。
「さて、チヒロ。僕が君に魔法を教えてあげよう。」
こうして私は、魔法という今まで触れてきたことのない文化を、学ぶことにしたのだ。
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