番外1 ネロSaid もうすでにチヒロロス
チヒロがティエラに戻ってしばらく経つ。
「チヒロ、元気にしているかなぁ。」
「チヒロ…」
「チヒロ、どのくらいで帰ってくる?」
チヒロに割り振られた仕事が、それぞれに回ってきているため、早くもチヒロロスを感じている訳だ。
「あと二年半だろー?」
「全然減ってない。」
「チヒロが帰った時も、二年半って言ってた。」
特にアンジュとアンヘルのチヒロ不足が目立っている。
「チヒロ…」
「チヒロ…」
「これはダメだな。」
アンジュとアンヘルの様子を見て、アルバートが笑う。
笑い事か?
チヒロが帰って、すぐにこれだろ?
「課長。どうします?オフィス内の士気の低下が凄まじいですけど。」
「そうだなぁ。」
チヒロがコスモスに来る以前も、このメンバーでやっていたため、仕事の進行度はこんなものだったが、確かに、チヒロがいなくなったという事が、オフィス内の雰囲気に影響している。
これじゃあ、二年半はもたないだろ。
「そうだなぁ。会いに行くのはダメ。チヒロからの連絡も来ない。じゃあ、俺たちから連絡をするしかないよな。」
「はぁ?」
何を言っているんだ?
チヒロは、極力、連絡も取らないって言っていただろ?
「チヒロは、繋がりがあったら、会いたくなるからダメだと言っていなかったか?」
「でも、どうしてもの場合は、連絡をしてもいいって、言っていただろう?」
「これが、どうしてもの場合なのか?」
仕事は進まず、メンバーの士気は低下。
雰囲気もどことなく暗い。
言われてみれば、どうしてもという状況かもしれない。
「それにさ。思ったんだけど、一度手に入れたものという物は、そう簡単には手放せないと思うんだよね。」
「どういうことだ?」
「チヒロも賑やかな空間から、一人の空間に戻った訳だろう?」
一人の空間というのは、チヒロの家の事だろうか?
「それで?」
「もしかしたら、チヒロも、今まで俺たちと一緒に居たことを思い出し、寂しい思いをしているかもしれない。」
「なんだ、それ。」
そうかもしれないが、チヒロは緊急性がある時だけ、連絡をしてもよし…と言っていたんだぞ?
「なんだよ。ネロは心配じゃないのか?」
「心配?なんの?」
「そりゃあ、チヒロの。」
何度も思うが、チヒロが帰って、そんなに日も経っていないんだぞ?
今から心配をしていたら、二年半をどうやって、過ごすつもりなんだ?
「ネロ。君は、約束をしたからいいと思っているかもしれないけれど、絶対なんてないんだよ。」
「何を言っているんだか。チヒロは、約束を破らないよ。」
俺との約束を破ったことはないから。
「まったく。マーキングの余裕かい?」
「な?何を言っているんだ。とにかく、緊急性のないやり取りはダメだろ。」
「はぁ、分かったよ。」
…アルバートがこの返事をしたとして、全く信用が出来ないんだが?
「ネロは、放っておいて、他のメンバーと一緒にチヒロにメッセージを送るから。」
「はぁ?」
「ネロは、しなくてもいいんだよな?アンジュとアンヘルは、メッセージを送りたがるよなぁ。よし、さっそく。」
「待て。」
こいつを野放しにしては、ダメだ。
ほっとくと、やりたい放題しだす。
「わかった。取りあえず、チヒロの様子を伺うメッセージをお前が送る。それならいいだろ?その返事を、皆で共有すればいいんじゃないか?」
そうすれば、今、チヒロがどんな感じなのか、分かるかもしれない。
それによって、この空気も解消されるかもしれない。
「そうだな。それがいいかもしれない。仕方がないから、ネロも送っていいよ。」
お前、話を聞いていたか?
無理やり、デバイスを押し付けられて、何を送ればいいか、悩む。
こういう時、何を送るんだ…?
結局、そっけなく、二言、文字を入力して、アルバートにデバイスを返した。
「まったく素直じゃないんだから。名前すら、書いてないし。」
「いいんだよ。」
「はいはい。じゃあ、送信。」
アルバートは、そのままメッセージを送信する。
結局その日は、チヒロロスが、どうにもならず、解散になった。
仕事なのに、解散…
そして、次の日。
俺が、オフィスにやってくると、昨日とは職場の空気が違うように感じだ。
「なんだ?」
「よう、ネロ。」
なんだ?
その、不気味なテンションは。
「企画宣伝課の危機は過ぎ去ったんだ。」
「危機?」
「チヒロロスが、解消って事。」
…なんでだ?
「昨日、チヒロから返事が来てさ。チヒロから、メッセージのやり取りの許可を得た。」
「何をやっているんだ…」
「その話をしたら、皆、ちゃんとやる気を出してくれたんだよね。やっぱりチヒロは、救世主だ。」
そんな救世主は、おそらく、不本意じゃないか?
「チヒロに感謝されたしな。」
「感謝?邪魔だと言われたのではなく?」
「チヒロの事を何だと思っているんだ?」
アルバートが、どんな手を使って、チヒロとのやり取りを勝ち取ったのかは、後で問いただすとして…
まぁ、でも、二年半、退屈しないで済みそうだなと、チヒロから帰って来たメッセージを見ながら、思うのだった。
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