90話 メルからの蜂蜜色のプレゼント
すっかり忘れていた。
そういえば、メルがお土産をカバンに入れたと言っていたな。
わざわざ電話までくれたのに、アスガルさん達との話や、ユオとの話ですっかり忘れていた。
メルごめん。
旅行に使ったカバンって片づけ面倒くさくて、中身が入ったままタンスの中に収納しちゃうんだよね…。
ほら、旅行のしおりみたいな普段使わないでしょというものや、小物を入れたポーチとか。
それで、次の旅行で使うときに、こんな所にあったんだって、出てくることがある。
私は、ミシュティに行ったときに使ったカバンを、タンスの奥から引っ張り出した。
確か、メルはカバンに入れておいたと言っていた。
いつ?と思ったけど、多分、メルに抱きつかれ、くすぐられたとき、そっと私のカバンに入れたのだと思う。
どこだろう?
一番大きいところは、荷物を出したりしたから絶対にないはず。
そこにあったら気が付けるだろうし。
ということは、カバンの側面のポケットかな?
そう思い、私は、側面のポケットに手を入れた。
何かが手に当たる。
それを掴んで、手を抜くと、手の中には、透明度の高い金色の石があった。
石?
ミシュティの石なのかな?
よく異世界転移装置の持ち物検査に、引っかからなかったな。
それにしても、どこかで似たものを見たことがあるような気がするんだけど…
うーん…なんだっけ?
あ、アルバートさんからもらった石。
確か、マナ・ストーン。
魔力を封じ込めた石と言っていた気がする。
アルバートさんからもらった石は、グレーの石。
この色、何となくメルの色みたい。
蜂蜜のようなきれいな金色。
アルバートさんは、お守りだと思ってくれといって、ミシュティに行く前に渡してくれた。
メルもお守りをくれたということかな。
…電話してもいいかな。
せっかくだし、これが何かも聞きたいし。
繋がらなかったらあきらめよう。
私は、デバイスを取り出し、以前メルが私にかけてきた番号をタップした。
ザザッ…ザザッ
これ、ちゃんと繋がっているのかな…
壊れたラジオみたいになっているけど。
ザザッ…ザザッ…プツッ
「はい、こちらミシュティ通信部…」
ミシュティの通信部?
なんつうところから、電話かけてきたのよ。
切ろうかな…
でも、そしたら不審電話が来たって疑われる?
「あの、以前メルーレ・ドゥ・ミシュティ様からお電話いただいた、チヒロというものですが…」
「……。」
いやぁ…。
怪しいよね…。
電話、やっぱり切ろうかな…。
「少しお待ちください」
えっと、これはどっちだ?
いけたか?
いけたのか?
それとも、足止め?
どっちよ。
ザザッ…ザザッ…
「よ、お久しぶり。」
この声。
「ビスクートさん?」
「あたり。」
ビスクートさんの無邪気な声に安心してため息が出た。
「知らないところから、連絡がきたって報告が上がってきて、チヒロと名乗ったって言ってたから、もしかしてと思って。やっぱり正解だったな。」
私は、ビスクートさんに助けられたのか…
「ありがとうございます。…メルは、なんていうところから連絡してきてるんですか…」
「後で言っておくよ。」
「グラースさんにも言っておいてください。」
グラースさんも、この電話で連絡してきたから同罪です。
まったく。
「わかった。言っておくよ」
ビスクートさんのクスクスとした笑い声。
さっきまで緊張状態だったから、安心するわ。
「それで、何か用だった?」
「メルと話がしたくて。気軽に電話したんですけど、全然そんなノリで電話していいところじゃなかったですね。」
「メルが先に、これで電話したんだろう?それで、メルに話だっけ?呼んでこよう。」
え…?いいの?
「じゃあ、待っていて。」
ザザッ…ザザッ…
また、壊れたラジオのような音がする。
メルと電話。
さっきとは、全然違う気分で私はメルを待つのだった。
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