901話 やりたいことがあるんです
「私が長期で休んでいた理由は、仕事の手伝いをしていたからなんです。」
「仕事?家庭の事情じゃないの?」
「家庭の事情による、仕事の手伝いです。」
…無理があるかな?
でも、仕事をしていたのは、本当だから。
それから、この後、話を進めるために、仕事をしていた事は、絶対に伝えないといけない。
「なるほど。事情があるのかな?わかった。それで?」
違和感満載の話の導入には、何とか納得してくれたみたいだ。
本当に、線引きの上手い会長だ。
これを会長に言うのは、忍びないんだけど。
「その仕事の最中にいろんな人に出会いました。」
「出会い?」
「はい。それから、いろんな場所に行きました。」
「場所?手伝いのために、いろんな場所に…」
異世界でいろんな人に出会い、いろんな場所に行った。
「私が大学に復帰したのは、その仕事に戻るためです。」
「えっと?」
「大学を卒業したら、また、その職場で働かせてもらうつもりでいるんです。」
「なるほど。バイトから正社員という感じかな?」
職員から、異世界留学でお休みを貰い、職員に戻らせてもらうんだけど。
分かりやすいのは、そんな感じだよね。
「はい。ただ、職場の中で、私がまだまだ未熟だという事が分かりました。なので、私は大学に戻って来たんです。」
心残りの清算と、自分への成長。
心残りの清算は、大学が始まったら、すぐ行うつもりでいた。
だから、大学のすべてを使って、自分の成長に投資するつもりなのだ。
「そして、やらなきゃいけないことが多くあることが分かりました。」
人とのコミュニケーションのために、サークル活動を続けることも考えたけど、日々入れ替わるお客さんや、旅行先の人達と関わるのに、サークル内の狭い人間関係では、ダメだと感じた。
だって、一緒に居るメンバーは安心できるけど、安心できるメンバーだけではダメだと思って、わざわざこっちに帰って来たのだ。
固定された人間関係だけでは、ダメだろう。
「例えば?」
「資格を取ったり、取っていない授業も聞くだけなら受けられるので、それを聞きに行ったり、あとは、就職活動ですね。」
「就職する場所は、決めているのに?」
「はい。いち早く社会にもまれるために、インターン制度を使おうかと。」
二年生から参加できるインターンがあるみたいだし、そういう所を活用しつつ、初対面の人たちとの関わり方を学ぶ。
そして、お客さんの捌き方を学ぶ。
バイトも新しい所を探すつもりだし、正直、いくら時間があっても足りないと思っている。
「私は、時間が足りないくらいです。」
「そこにサークル活動へ割く時間はない…という事かな?」
ハッキリ聞いてくるなぁ。
まぁ、遠回しに言い続けても、この人なら分かるだろう。
「はい。もう決めたことなので。」
「サークル内の人間関係に悩んでやめる訳ではないんだな?」
もう、悩んではいない。
そこにいて、辛いとかもない。
ただ、サークルよりも、もっとやりたいことが出来ただけ。
「はい。」
「そうか。分かったよ。じゃあ、これ。」
会長から手渡されたのは、サークルの退会届。
「あれ?もしかして、今日、私が辞めることを話すって、分かっていたんですか?」
「いや?ちゃんと、休会届も持って来ているけど?」
そういって、カバンからもう一枚の紙を出す。
「それから、この二枚を出さなくてもいいように、とも願ってはいた。」
「あははは…」
期待を裏切る形になり、すみません。
「はぁ…貴重な戦力だったのに。」
「結局のところ、二年生になって、浮かれていたので、あまりお手伝いできていた記憶はないんですけど。」
「それでも、あれだけ、サークルに来ていたんだから、今後の中心になると思うだろ?」
あぁー。
役職持ち?
絶対に嫌なのだが?
「私には、そういうのは向きません。それに、サークル内の空気を悪くしていた人間に、そういうことを任せようとしないでください。」
「いやいや。向いていたし、当初は、興味もあっただろ?先輩たちにベッタリして、役職持ちの仕事をしていたじゃないか。」
「それは、あくまで手伝いだからいいんですって。」
自分のやるべきことになったら、プレッシャーで、気持ち悪くなり、吐いちゃいそう。
それに、好きだったから、サークル活動に夢中になっていただけで、なにかを頼まれてやっていたわけでもない。
好きじゃなかったら、出来ないって。
私は、書類に必要事項を書きながらそう思った。
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