898話 ネロSaid 約束を破ったら、俺が迎えに行ってやる
企画宣伝課の全員で、チヒロが消えた場所を見つめる。
シンッとした空気。
「あーあ、帰っちゃった。」
それを破ったのは、リリスだった。
それに続くように、空気が和らいでいく。
「チヒロ、ちゃんと無事に帰れたかな。」
「転送した装置は、無事にティエラに着いたみたいだから、おそらくチヒロも無事に帰れているはずだな。」
カインの不穏な問いに答えたのは、オーロック。
「そんな不安そうな顔をしなくても、以前もティエラに行ったことがあるんだし、その時も何事もなく着いたんだろ?」
「でも、前回は平気でも、今回はという事もあるだろ?」
「チヒロ、ダメなの?」
「チヒロ、無理なの?」
「おいおい。だから、ちゃんと無事についたって言っているだろ?」
確認の連絡を入れた方がいいかもしれない。
「こらこら。連絡を入れようとしない。」
「嘘だろ?今、帰ったばかりだろ?企画宣伝課のメンバーがおかしくなった?」
俺が連絡を入れようとすると、アスガルとオーロックに止められた。
「何で止める?」
「だから、今、帰ったばかりだろう?チヒロも、連絡が来たら驚くからやめてあげろ?」
「ちゃんと着いたかの連絡だろ?必要連絡事項だ。」
「そんな訳あるか。」
まぁ、チヒロが俺の事を忘れない様に、ちゃんと言い聞かせておいた。
だから、今、連絡する必要はない。
オーロックが無事にティエラに着いたというのであれば、チヒロは向こうに、ちゃんと着いているはずだ。
「それにしてもさぁ、ネロ。お前、やりたい放題だったな。」
「なんのことだ?」
「しらばっくれる気か?」
「だから、何のことだ?」
…よし、戻るか。
「あ、おい。どこに行くんだよ。」
「仕事中なんだから、オフィスに戻るに決まっているだろ?やることをやったんだから。」
「お前な?ネロが、この時間を長引かせていたと言っても過言ではないというのに。」
「人のせいにしないでくれ。じゃあ、俺は戻る。」
隣を見るが、チヒロはいない。
これに慣れる日は来るだろうか。
慣れる前に、早く戻ってこい。
だいたい、俺の事を忘れない様にと言ったのは、俺なのに、俺がチヒロに振り回されてどうする?
冷静になれ。
「ネロ、どこに行くんだ?」
「だから、オフィスに帰ると言っているだろ?」
「あ、いや、オフィスはそっちじゃないからな?」
はぁ。
「今回、一番ダメージを負っているのは、ネロかもな。」
「珍しいね。」
「うん、珍しい。」
「いつもスンとした顔をしているんだから、別にいいんじゃないの?」
好き勝手に言う、企画宣伝課の奴ら。
「そうね。寂しいんだけど、ネロが私達よりも、寂しそうにしているから、それを見ると、冷静になるわね。」
「チヒロとネロ。最初からいいコンビかもしれないとは思っていたけれど、ここまでネロが気持ちを傾けてくれるようになるとは。二人で組んでもらって正解だったかもなぁ。」
「別に。俺は今度こそ戻る。」
さっき飛んでいた逆の方向へと向かう。
「ちゃんと帰れるか?」
「当たり前だ。」
「チヒロに対する素直さを、私たちにも少し分けて欲しいわね。」
「誰がやるか。」
行き先は、もう決まっているんだよ。
一足早く、オフィスに戻ってくる。
誰もいない、オフィスは静かだ。
ここには、まだ、チヒロの物が溢れている。
チヒロが、ここにいたことが確かだと、この部屋が証明している。
それから…
今日、チヒロから貰ったもの。
『私、ネロとの約束を破った事なんてないけど?』
知っている。
そもそも、俺が約束をするのが好きじゃないから。
『噛まないけど、なにか?』
あのニヤリと笑った顔で、そのまま去りやがった。
チヒロの落ち着かない様子を見ているのが面白かったが、最後の最後にしてやられたな。
『またね、ネロ。また会おうね。』
当然だ。
隣にいるのが当たり前だと、チヒロも言った。
待つのは、二年半だけだ。
二年半が過ぎたら…
俺がティエラに行ってやるよ。
それまでは、俺も、チヒロとの約束を守ろうと思う。
「さて、やるか。」
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