888話 始まりの地
「では、また来ますね。」
「また次会う時、楽しい話を聞かせてくれよ。」
「またね、チヒロさん。」
また会うことを約束し、私は錬金術のお店を出る。
両親へのお土産は確保した。
あと、地球に帰るために、やり残したことと言えば、挨拶だけかな。
他の人への挨拶は、また日を改めてになるし、今日できることは、ここまでだろうか?
「もういい時間だし、そろそろ部屋に帰ろうかな。」
センタービルに戻りながら、辺りを見回す。
この商業地区に初めて来たときは、アンジュ君とアンヘル君が一緒だったっけ?
そこで、二人が想像以上の肉体派だと、知ったんだよね。
おつかい担当として、いろんな人たちとも会った。
おつかいという仕事だったけれど、皆に会いに行くのは、楽しかったなぁ。
友人に会いに行く感覚だった気がする。
錬金術に夢中な師弟コンビも、仲の良い薬屋の兄弟も、それに、他にも買い物をするときに、話をするのが楽しくて、おつかい担当としての仕事が楽しみだった。
賑やかな商業地区を過ぎて、センタービル前の広場に到着する。
ここでの思い出は、ユオに会った事かな?
ユオに会ったことが、休日を過ごす楽しみの一つになった。
ユオの話は、どれも、ドキドキ、ワクワクとする話ばかりで、でも、少しリアルだった。
毎回、ユオが話を終えると、言うセリフ。
伝説は、嘘か本当か分からないから、いい。
確かに、その方が、よりワクワクするのかもね。
もし、本当に竜の一族がいるのであれば、会ってみたいものだけど…
会えたら何を言おうか?
まだ、ユオから話を聞けていないから、コスモスにはちゃんと戻って来て、ユオから話を聞かせて貰わないとなぁ。
そして、センタービル。
企画宣伝課のオフィスがあって、私の部屋があって、それから異世界に旅行するための転送装置がある。
ここに初めて来たときは、驚いたなぁ。
だって、私がいたところと全然違う風景に、私は驚いたんだっけ?
いや、ネロがどんどんと先に進むから、驚く時間も与えて貰えなかったんだっけ?
「あ、ちょっとだけ見に行ってみようかな?」
私が初めてコスモスに来た時の場所。
ベッドの上にいたと思ったら、いきなりよく分からないところに飛ばされたから、取りあえず光を求めて、森の中から出たんだよね。
だから、あっちの方から、来たんだよね?
森の方へ歩き出して、ふと思う。
私ここに来て、初めて自分が飛ばされてきた場所に戻るのか?
…一回は確認しに来るでしょう。
でも来なかったという事は、
「こっちに馴染んでいたんだなぁ。」
まぁ、元に居た世界に戻る手段がないと言われていたし、それに納得もしていたから、来なかったんだろうけど。
一度は確認しに来るべきだったかなと思う。
手がかりは現場にある、とよく言うし、戻る手段が欲しければ、一生懸命探すべきだったかなぁ。
明るい方から、どんどんと離れる。
時間が時間だから、暗いなぁ。
師匠に叩き込まれている魔法で、指先につめの先ほどの明かりを灯す。
指先を見て、思わず苦笑いだ。
「まだまだ、実用的ではないなぁ。」
でも、明かりは灯るようになった。
そう思えば、成長したと言えるだろう。
「確かこの辺だったと思うんだけど。」
…異世界に飛ばされたて、ほやほやの記憶は、混乱していて、詳しくは覚えていないけれど。
何か見覚えがあるような気がするから、おそらくここなのだろう。
暗いからなのか、なかなか雰囲気があるように感じる。
何か、残っているかな?
明かりを地面に近づけて照らす。
しばらく見て回ったが、やはり何も残っていなかった。
「あはは。やっぱりないか。」
そう言えば、ネロに発見されたのも、ここだったっけ?
なら、観光部の人たちが、調査しているか。
イブさんに巻き込まれたことも、教えてくれた訳だし、今更なにか残っているようなことはないだろう。
特別なものは何もない。
あるのは、たくさんの木々。
「ここが始まりの地なんだなぁ。」
ここで私はネロに見つけて貰い、異世界の生活をスタートさせたんだ。
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