887話 パワーアップをするための選択
「今日は、相談に乗って貰い、ありがとうございました。」
出来上がったお土産の品を包んでもらい、それらを受け取る。
「いや、俺も面白い物が見られたから、良かったよ。」
「私も、願いを見る体験なんてしたことがなかったから、楽しかったよ。」
「そうだね。これから、検証をするために、もう一度やるかい?」
「師匠。私もやってみたいです。」
「という訳で、助かったよ。チヒロ。」
はは。
お手伝いが出来たのなら、良かったです。
「これで錬金術の幅が広がるかもしれないと思うと、胸が高鳴るな。」
目をキラキラさせながら、新技術に胸を高鳴らせるヘルメスさん。
すると、アリスさんが、ひょいひょいと手招きをする。
抗う事もないので、手招きに引き寄せられるように、アリスさんの方へと近寄った。
「どうかしましたか?」
「チヒロさんには、お礼が言いたくて。」
今さっきも言ってもらったんだけど?
そんなにお礼を言われることはしていない。
私の相談に乗って貰い、その流れで、ヘルメスさんやアリスさん達も得をした訳だし。
「どうして、そんなに?」
「あー…これで、しばらく、師匠がコスモスに留まる理由が出来たでしょ?」
「え?」
留まる?
「師匠ったら、新しい発見があると、しばらくそれに没頭するから、他の事に目が行かないんだけど、一段落して、新発見が欲しいと、また新発見を求めて、異世界に行っちゃうんだよね。」
あぁ、それで、しばらくコスモスに居なかったって言っていたもんね。
「錬金術の発展には、いい事なのでは?」
「そうだけど、私の事を置いていっちゃうし、店番を私に任せるし、いつの間にか置手紙だけ置いていなくなっているし、それから…」
こめかみに手を当てながら話す姿から、アリスさんの苦労が、少しだけ見えた気がする。
いまだに、キラキラと目を輝かせながら、今度は、紙に何かを書き込んでいるヘルメスさんを見て、そう思った。
いや、楽しそうでいいんだけどね。
私も、企画宣伝課の皆が自由に、そして楽しそうにしている姿は見ていてとても楽しい。
…時々、ストップをかけたくなることもあるけれど。
「ねぇ、どう思う?」
「え、っと?」
「チヒロさん?話、聞いていた?」
「あー…ヘルメスさんが、少し大変という事ですよね?」
違うか?
「少しじゃないけど?とても大変なんです。」
あ、はい。
すみません。
ものすごい勢いで、訂正を入れられてしまった。
でもさぁ。
このまま、アリスさんのヘルメスさんに対する文句を聞いていても、あれなので。
「でも、アリスさんって、ヘルメスさんの事、本当に大切なんですね。」
「へ?え?あ、何の話をしているの?私は、師匠がいかに、私を振り回すかという話をしていてね?」
「でも、ちゃんと振り回されてあげているあたり、アリスさんがヘルメスさんとの絆を大切にしていることが分かりますけどね。」
わざわざ振り回されることが分かっていて、一緒に居るという事は、もうそういう事でしょ。
アリスさんから出てくる話は、ヘルメスさんの話が多いから。
「はぁ、チヒロさん。確かに、文句は百…いや、千…万はあるかもしれないけれど、それがあっても、私は師匠を尊敬しているし、師匠の役に立ちたいと思っているから。」
だよね。
「だから、チヒロさんに憧れていたりするんだよね。」
「私が?」
憧れられることを、何かしただろうか?
「もっと、成長するために、故郷に戻るって事に。」
「あー。やり残したことが、あまりに多すぎるので、清算するために戻るだけですけどね。」
大学とか、大学とか、大学とか…
あと、若干気まずい人間関係も何とかできたらと思っている。
友人に心配をかけてしまっていたみたいだから、そこだけでも、解消できたらいいなぁっと。
「アリスさんも、いろんなことを天秤にかけて、それでも異世界に行ってみたいと思った時に、言ってみればいいと思います。」
こんなに簡単に異世界に飛べる場所で、そう悩むという事は、なにかあるんだろう。
私よりもここで過ごした時間が長い分、ここにある、しがらみも、私より多いだろうから。
でも、私と同じような気持ちを抱き、ここに留まる事を選択しているアリスさんの事を応援せずにはいられないと、思ってしまった。
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