88話 ただのお土産渡しのはずが、何かに巻き込まれた予感がします
よく考えると、自分の上司の人たちにお土産を渡すってことだよね。
緊張する。
「私、初の仕事でミシュティに行ってきたんです。良かったら、そこで買ったものを貰っていただければと。」
渡す機会があればいいなと思い、自分の机の上に置いてあった、お土産の袋たちをアスガルさん達に渡す。
「ミシュティか。お菓子の国だね。」
「これは、なんですか?」
ジェフティさんが、袋の中身を確認し、私に問いかけてくる。
「ミシュティの特産品、宝飴の石のドロップです。」
「すごいな。この飴、魔力をまとってる。」
「そういう石が、ミシュティでは採れるらしいです。」
「へぇ、そこから加工する技術まで、ミシュティにはあるんだね。」
3人の関心は、宝飴の石の加工の仕方。
やっぱり見る人が見れば、職人芸だということが分かるんだな。
「そういえばミシュティって、外部の交流をあまり持っていないよな。」
「そのおかげで、独自の文化が発達したと考えられますが。」
「そうだね。だけど、外部の交流を持っていないというよりも、ミシュティから外部へ行くことが少ないという感じだけどね。」
…お土産一つで、そこまで分析します?
「だけど、今後はミシュティも外部交流を積極的にするんじゃないかな?ねぇ、チヒロ。」
ん?
アルバートさん、なぜそこで私に話を振るのでしょうか?
「どういう意味だい、アルバート。」
ほら、アスガルさんの目が、また鋭くなっているって。
「そうだろう、チヒロ。」
アルバートさんは、アスガルさんの圧をかわし、私ににっこり笑ってきている。
いやいや、そうだろうと言われても。
ほら、アスガルさん達までこっちを見ているって…。
「いや…えっと。そうですね。外部交流もこれからしていきたいって言ってたような…」
「誰が?」
逃がしてくれない、アスガルさん。
しかも、アスガルさんの目は、噓を見抜く目。
「ミシュティの方です。」
「そんな一般の人の意見が、簡単に通るのかい?」
……。
観念します。
「グラースさん…えっと、ミシュティの王様が言っていました。」
私の言葉に、オーロックさんとジェフティさんは、目を見開く。
そして、アスガルさんは、目を瞬かせ、笑みを深くする。
「王様ねぇ。どうして、一般の君が王様の言葉を?」
「お手伝いする機会があったんです。」
「どんな?」
「ミシュティは、観光客の減少で悩んでいると話されたので、そのお手伝いをしたんです。」
「ふーん」
…疑われてる?
嘘ではないって、分かっていると思うんだけど。
だって嘘じゃないし。
「ほんとでしたよ?チヒロのデバイスに、ミシュティの国王様から連絡来ていましたから。」
フェリシアさんがフォローをしてくれる。
「へぇ、電話する仲なんだ。」
「王女様とも、友人らしいですしね。」
うんうん。
そうだよ、メルは友達だし。
「チヒロは、王族の人たちと、とても仲がいいみたいですよ?」
そうですとも。
仲良くなって帰ってきましたけど、なにか?
「それは、すごいな。滞在日数5日ぐらいじゃなかったか?」
「へぇ、それはすごいね。その期間で、王族の人たちと仲良くなってきたんだろう?」
アスガルさんは、オーロックさんの言葉に、先ほどの疑う雰囲気を解いて、朗らかになった。
そうだよ、その期間で仲良くなってきたし。
偶然だけど。
さっきまで、責められている気分だったから、私は渾身のどや顔でアスガルさんを見る。
「そうだな。じゃあ、僕のところに来そうな仕事、誰に振るか考えていたんだけど、チヒロにやって貰うのも、ありかもな。詳細は、また伝えるよ。」
そういうとアスガルさんは、椅子から立ち上がり、私の方へ歩いてきた。
ん?
仕事?
「あの、仕事って…わぁ。」
私の言葉は、アスガルさんの手によって阻まれてしまった。
アスガルさんは、私の頭に手を置き、ポンポンと叩いた。
「いじめてしまって、ごめんね。恨むなら、意味深な発言をしたアルバートを恨むように。それから…」
ん?
「お土産ありがとう。部下からお土産を貰ったの、久しぶりだった。大切に食べるね。」
アスガルさんは、手を私の頭に置いたまま、目線を私の高さまであわせて、微笑んだ。
うぉぉ…。
顔面の破壊力…
まぶしい。
そしてもう一度、頭をポンポンして手は離れていった。
「用も済んだし、僕は戻ろうかな。」
アスガルさんは、いつもの飄々とした掴みどころのない雰囲気に戻り、後ろ手に手を振って、会議室を出ていった。
「それでは、私たちも失礼します。チヒロ、お土産ありがとうございました。」
「また、旅行の時にでも。チヒロ、サンキューな。」
そして、ジェフティさん、オーロックさんも頭をポンと叩いて、出ていった。
な、なんだったの?
というか、アルバートさん。
急に、グラースさん達の話をし始めて、不思議とは思ったけど。
もしかして、アスガルさんの次の仕事を私に押し付けようとして、この場を選んだな。
そして、それを察したフェリシアさんは、乗っかったということで。
普通のお土産渡しのはずが、私は、何かに盛大に巻き込まれたのであった。
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