885話 願いが目に見えると、思ったよりも恥ずかしい
空の魔法石の結晶を両手で握りしめて、ちょっと動機不純の両親の健康を祈る。
両親の健康、両親の健康、両親の健康…
これからもチヒロの世話をどうぞよろしく…
両親の健康、両親の健康、両親の健康…
これからもチヒロを可愛がってください。
両親の…
「チヒロ?もう大丈夫そうじゃないかい?」
「え?あれ?」
私は握りしめていた手を開く。
すると、さっきまで透明だった空の魔法石は、淡い緑色に色づいていた。
所々に、ちょっとだけ黒の点が混じっているけれど。
…おそらく、欲望がひょっこり顔を出したときに、ポツンと黒い丸が付いたのだろう。
でも、緑と言えば、健康の色。
なんか、意外と普通?
おまじないとかでも、健康のイメージと言ったら、緑みたいなところがあるよね。
だから、あまり、意外性がないというか。
「チヒロの願いが、チヒロのイメージする色や形で魔法石内に留まったみたいだね。」
「じゃあ、成功という事ですよね?師匠。」
「あぁ、そうだね。」
…いや、健康と言えば、緑だよ。
緑と言えば、健康をイメージするよ。
やっぱり誰もがイメージできる色というのは、大切だと思う。
健康は緑。
別に普通じゃない。
共通認識で、緑だと分かりやすいだけだ。
もしも、私が、これをおまもりだよと渡した場合、健康を願ったんだろうなと、一発でわかるおまもりは、とても親切だと思う。
「あれ?でも、なんか、綺麗な緑なのに、所々に、毒々しい何とも言えない色が、混じっていますね。失敗ではないんですか?」
「純粋に何かを願っている時に、もしかして、他の思考が入って来てしまったのかもしれない。うーん。ただ、それもそうか。思考を完全にシャットダウンすることは出来ない。だから、願いを込めている最中に混じった思考は、もしかしたら願いとして、組み込まれてしまったのかもしれないね。」
…すみません。
結構しっかり、不純な願いを込めていました。
ただ、こうやって可視化されると、何とも言えない気分になるというか…
悪いことをしたような気分になるというか…
でも、欲望に忠実になる事も悪くないよね。
メインは、両親の健康だから。
その先に、どんな気持ちがあろうと、両親の健康が第一だから。
ただもう一つの方は、ちょっとだけ欲望を押さえて、願いを込めてみた。
最初は、三回に一回くらいのペースで私欲の願いを込めてしまったけれど、今回は、七回に一回くらいのペースで。
すると、出来上がった物は、先ほどよりも鮮やかな緑になり、毒々しい斑点も薄くなっていた。
ここまで、はっきり表に出て来てしまうとは…
願いを可視化する技術は、思った以上に恐ろしいものかもしれない。
欲望垂れ流しだよ?
怖すぎだよ?
「さて、二つ完成したみたいだけど、これでいいのかい?」
…いいのか?
これでいいのか?
作り直した方がいいかな?
「この斑点は、見た目は確かに毒々しいかもしれないけれど、別に悪い気がこもっているという風には感じない。これもチヒロの個性でいいんじゃないかな?」
この毒々しい感じが、私の個性…
それは、喜んでもいいやつかな?
「俺が聞きたかったのは、これら二つの出来ではなく、他にも何か作るかい?って事だったんだけど。」
「あ、はい。私が異世界にいることを知っているのは、両親たちの身なので。」
他にあげたいと思う人も、地球にいる訳じゃないし。
ここまででいいかなと思ったが…
「あの、この魔法石って、複数人に効果がある物って作れるんですか?」
「というと?」
「例えば、企画宣伝課の皆に…とか。」
例えも何もないんだけど。
「あぁ、お土産ではなく、置き土産だね?」
「いいね。喜ばれるんじゃない?」
喜んでもらえるだろうか。
お世話になったし、そのお礼として、この石が、皆を守ってくれるように。
「じゃあ、大きい魔法石を一つ用意しよう。」
「あ、あと、すみません。それとは別に、もう一つ貰えますか?」
「分かったよ。アリス、奥から持って来てくれるかい?」
「分かりました。」
もちろん。
もう一つはネロに。
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