880.5話(2)ユオSaid 俺の主人がだいぶ丸くなっていた
急に黙り込んだネロさんを眺めて、俺は口を閉ざす。
…に、鈍すぎる。
嘘だろ?
チヒロが、さっきのあのテンションで、この場を去っていったのだって、明らかにネロさんを意識しての事だろ?
なのに、ネロさんは、チヒロが俺を譲った行為を無駄には出来ないとか、言い出した。
そんな行為よりも、絶対にチヒロを追いかけた方がいいって。
ただ、チヒロには少し悪いことをしたみたいだ。
あんなに動揺すると思わなかったなぁ。
もしかしたら、ネロさんへの感情を、バレない様にでもしているかもしれない。
いつものチヒロを見ている限り、ネロさんへの想いは、しっかり隠れているんだと思う。
俺がたまたま、いい球を放って、それが当たったってところだろうか?
半ば、冗談のように言った言葉だったんだけど、それが見事に当たったらしい。
チヒロに、想い人がいるんだろうなというのは、分かっていた。
以前、竜の話をしている過程で、闇の竜の話を聞きたいと言った時、なぜか聞くと、夜が好きだからと答えた。
答え自体は、別に変った様子はないけれど。チヒロがあまりにも、何かを思い出したかのように言うから。
しかも、それが甘く、可愛らしい表情をしていたから。
恋をしているのだろうと、気が付いたのは、その時。
恋をすると、可愛くなるというが、間違っていないんだろうな。
そして、夜みたいと言って、気が付いたのは、俺もネロさんの事を夜だと思うから。
チヒロの傍にいる、夜のような人。
ネロさんって、夜に対して、そんなにいいイメージを持っていなかったよな?
夜は暗く、静寂は恐ろしい。
孤独は、より一層ひどく感じ、世界に取り残されたように、闇に飲まれていく。
でも、夜が好きと言われたネロさんは、嬉しそうにしていたんだよな。
一体、どんな心境の変化があったんだか。
チヒロ、夜が好きだというたびに、嬉しそうにしっぽを振り振りしちゃって。
それで、ネロさんは、チヒロの気持ちに気が付いていないし、おそらくチヒロも、ネロさんの気持ちは、そういった意味ではないと、思っているんだろう。
ちゃんと認識していたら、あのタイミングで、俺たちの前から逃げ出さないだろう。
「おい、ユオ。何を黙っているんだ?」
はぁ。
本当に、自由奔放な主人だと思う。
「さっきまで、黙っていたのは、ネロさんでしょ?それに、俺も考え事ぐらいします。」
「そうなのか。じゃあ、そろそろ、俺は帰る。」
「えぇ?話は聞いていかないんですか?」
ここまで待っていたのもの、チヒロが、俺を譲ったからなのか?
「なんで、俺が、竜の話を他の人から聞かないといけないんだよ。おそらく俺の方が詳しいからな?」
それは、ごもっとも、かもしれない。
俺が竜の話をしたのも、ネロさんが釣れると思ったからだし。
「じゃあ、俺も帰る。気分転換は出来たからな。」
あくまで、気分転換で通すのか。
「そうだ、ネロさん。」
「なんだ?」
「人の一生は短く、人の心は、さらに短い。伝えてないことがあるのなら、ちゃんと伝えないと、いつの間にか、関係が風化していますよ?」
それに、ずっと一緒に居ても、簡単に離れ離れになってしまう。
チヒロは、戻ってくると言っていたが、チヒロの意思に関係なく、トラブルに巻き込まれる可能性もあるのだ。
「はぁ。そうだな。あいつが帰るまで、後一週間。ちゃんと考えるよ。」
そして、また、恋愛は人を変えるのかもしれない。
「…ネロさんが素直で気持ち悪い。」
「お前、本当に驚くほど、失礼だな。じゃあ、帰るから。」
もしかしたら、ネロさんは、チヒロといることで、素直さを学んだのか?
昔のネロさん、いろんな意味で、尖っていたからなぁ。
こんな丸くなったネロさんを見て、きっと、あの人たちも驚くんだろう。
「あ、また、俺の調べたものを、聞いてもらう事を忘れた…」
俺は、今日、その話をしたかったというのに。
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