880.5話(1)ネロSaid 大事?当たり前だろ?
「ネロさん、追いかけなくてもいいんですか?チヒロ、帰っちゃいましたよ?」
「さっきの話を聞いただろ?チヒロが、お前を俺に譲ったんだぞ?俺がチヒロを追いかけたら、チヒロが気を使うだろ?」
「あぁ。俺への気遣いではなく、チヒロへの配慮なんですね。」
なんで、俺が、お前へ気遣いをしないといけないんだ?
「なんで俺が、お前に気遣いを…?みたいな顔をしないで貰っても?」
「よく分かったな。」
「分かりますけどね?ネロさんの事なら、大体、分かりますよ?ただ、こんなことを分かりたくはないんですけど?」
は?
確かに付き合いは長いが、俺のことを分かる訳がないだろ?
「俺のことを分かる訳ないだろうと、思っているんでしょうけど、俺、ネロさんの付き人みたいな立場でしたからね?」
「ほう?」
「ネロさんのしたい事を、それとなく察して、動く。これが、俺の役目ですよ?だから、ネロさんの表情、視線、体の動きなどなど、他数百から数千の情報を元に、俺は、常にネロさんを理解しようとしているんです。」
…うそだな。
嘘という事にしておこう。
怖すぎるだろ。
「俺は、ネロさんを常に観察することを許された身、言ってしまえば、ネロさんの存在する場所に置いてある、近くの壁の様な物。常に見守っているんですから、ネロさんの考えも分かるようになりますって。」
「冗談だよな?」
ユオのニヤリと笑う笑みを見て、俺とユオの心の距離が若干離れたような気がする。
「はは。」
「冗談だよな?」
その乾いた笑いは、なんだ?
「安心してください。冗談なんで。」
「分かりやすい冗談にしろよ」
「分かりやすい冗談なんて、面白くないですよね。」
…今、面白さを求めていないからな。
「でも、俺、分かっちゃいました。」
「なにをだよ。」
「ネロさんが気分転換に外に出た理由。」
…なんで、俺にも分からない事を、お前が理解するんだよ。
別に、仕事の気分転換に、外に出ただけだ。
そこに深い理由なんてない。
「何を分かったんだ?」
「えぇー?教えて欲しいんですか?」
「…ならいい。」
ユオのにんまり顔があまりにも腹が立ったため、断らせてもらった。
「いやいや。そこは聞いてくださいよ。興味あるでしょ?」
「いや?そこまで。」
「いやいや、興味があるはずです。興味がないふりをするのは、止めてくださいよ。」
…お前は、俺の何を分かっているんだ?
「ネロさん。」
目を湿らせ、俺の方を見て、両手を合わせて、お願いという仕草をした。
…お前がやっても可愛くない。
「俺のお願いをそんな顔で見ないで貰っても?」
「…正直に言うが、お前がやっても可愛くないからな?」
「あー…はいはい。ネロさんは、チヒロが大事なんですもんね。」
…なんで急にチヒロの話が出てくる?
「急に、なんだよ。」
「ネロさんが、元気がなかった理由は、チヒロがティエラに帰るからでしょ?」
「は?」
は?
俺がチヒロを?
確かに、チヒロがティエラに帰ることに関して、感じるものがある。
それに関しては、チヒロと話もした。
「チヒロがティエラに帰る事を納得しているんですか?」
「納得も何も、チヒロが決めたんだろ?」
「チヒロが決めたことだけど、納得できるかどうかは、別では?」
そんなことを言っても、チヒロの意思は固く、俺に話をしている段階で、もうティエラに帰ることを、しっかりと決めていた。
チヒロが悩んでいたのも、ティエラに帰るかどうかではなく、ティエラに帰ることをどう伝えればいいか…だ。
俺に口を出せる隙なんて、ない。
「随分と物分かりがいいんですね。」
「そうか?物分かりがいいふりをしているだけだと思うが。」
「引き止めたかったんですか?」
…引き止めてもいいなら、するかもしれない。
それだけ、チヒロと過ごした時間は、他に変えることが出来ない物があるから。
「その話については、俺とチヒロの中で決着が着いているんだよ。」
「へぇ。ならいいですけど。寂しくて、荒れたりしないでくださいよ?」
「誰がするか!」
毎回、毎回、一言多い。
ただ、気分転換に外に出たのは、確かに心のどこかにチヒロの事が引っかかっていたからかもしれない。
俺は、まだチヒロに伝えられていない、何かがあるのだろう。
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