880話 私とユオは夜が好き
「ネロさんは、全ての竜が好きってことで。」
優しい空気感を割ったのは、ユオ。
面白そうに、にんまりと笑っている。
「チヒロと俺がどんなトークをしたか、気になりません?」
「あ?別に。どの竜が好きだろうと、いいんじゃないのか?」
「チヒロ、ネロさんは、俺らの事が気にならないみたいだ。残念だよな。」
「そうは言ってないよな?変な解釈をするな。そして、チヒロに変なことを言うな。」
ポンポンと飛び交うネロとユオの会話。
なんだろ?
空気感がさ、会って数日じゃないんだよね。
兄弟みたいなのか…?
いや、兄弟にしては、ユオがネロに対して、意識して敬語を使っている点や、言い方は軽いのに、ユオの事を立てている点から、違うなぁ。
友人もまたしかり。
うーん。
「変な事って何ですか?気になるんで、是非とも教えてください。」
「ふざけるな。」
「ふざけていませんよ。至って真剣です。」
「まず顔がふざけているんだよ。」
…軽口を叩ける、上司と部下。
若しくは、親しい先輩と後輩という感じだろうか?
…うーん。
それにしても、部下兼、後輩のユオが、ネロで遊んでいるように見えなくもないから、ちょっと違うか。
それにしても、仲が良い。
「あぁ、もう。聞けばいいんだろ?誰の話で盛り上がったんだよ。」
「よくぞ聞いてくれました。」
そんな嬉々として、話さなくても。
「チヒロは、闇の竜の話が聞きたいんだってさ。」
「は?」
「チヒロは闇の竜が気になっているらしいですよ?ネロさん。」
「…闇だぞ?」
ユオと似たような反応。
別に、闇でもよくない?
「なんで、チヒロは闇の竜が気になっているんだっけ?」
ここで、ユオに話を振られる。
もう一度、改めて言うと、なんか恥ずかしい気もする。
だって、ネロを思い浮かべながら、闇の竜が好きだと言ったようなものだから。
だって、闇と言えば、暗闇。
暗闇と言えば、夜。
夜と言えば、ネロでしょ?
私の中での闇のイメージは、透き通るような深い青色なのだ。
「好きだから。」
「は?闇が?」
「夜が。」
言ったところで、伝わらないでしょ。
何回かネロに、夜が好きだと言ったことがあるけれど、ネロも、闇を夜、夜をネロと連想させて、好きだと言っているとは、気が付かないだろう。
さりげなく、ネロに伝えられたことをに、内心満足した。
何も伝わっていないんだけど。
伝えた気になるって、怖いなぁ。
「そう言えば、俺、気が付いたことがあるんだよね。」
「気が付いた事?」
なんだ?
「チヒロは夜が好きなんだろ?」
「そうだね。」
「あの時は、夜について、思い出しているんだろうなって、思ったんだけど…」
実際そうだからね。
ちゃんと、夜=ネロを思い浮かべていたよ。
「ネロさんって、夜みたいだよな?」
「は?」
ネロは、突然自分の名前を出されて、固まっているが、私はそれどころじゃ無い。
何故バレた?
え?
そんなに分かりやすかった?
確かに、私もネロを初めて見た時に、夜だ…って、思ったけど、ユオも、そう思ったって事?
「ユオもネロの事、夜みたいって、思うんだ?」
「もちろん。俺も夜が好きだからさ。」
ユオは、ネロが好きだという事か?
…ここは、乗っかっておいた方がいいかもしれない。
下手にごまかしたら、墓穴を掘りそうだ。
「私も、ネロの事、夜みたいって、言ったことあるよ。」
「あ、やっぱり?俺も、そう思うんだよな。」
「うん。分かる。」
いや、分かるよ。
分かるけど、今は、そうじゃない。
絶対に連想されないだろうと思って、話をしたのに、ネロにバレたかもしれないじゃん。
「もしかしたら、あの時も、同じものを連想したかもしれないな。」
それはない。
あの話をした時、ネロとユオは会っていないんだから。
…とは言えない。
ネロを思い浮かべて、好きだと言ったことがバレる。
「そうだね。」
はは。
精いっぱいのごまかし笑顔を作ってみよう。
「それで、今日の話は、闇の竜の話でいいのか?」
「ちょっと待って?ネロは、もう話を知っているんでしょ?」
「まぁ、そうだな。ネロさんは、知っているみたいだな。」
…だよね。
そうだよね。
「今回は、ネロに譲ろうかな。私より先に、ネロがユオと会っていたんだし。」
「そうか?じゃあ、聞いていくか?」
「ううん。」
それも、また今度にしよう。
「最後に聞いて帰ろうと思ったから、来たんじゃないのか?」
「そうなんだけど。まだ、帰るまでに時間もあるし、もし、聞きに来られなかったとしても、次にコスモスに戻ってくるときに楽しみになるでしょ?」
耐えられるかなぁ。
うん、続きが気になっても、何とか耐えよう。
「そうか?」
「うん。私は先に帰るけど、ネロは、話を楽しんでね。」
そもそも、私がネロとユオの話に乱入したんだから。
「あぁ…」
「ネロ?どうかした?」
「は?いや、帰るんだったよな?気を付けて帰れよ?」
「うん。じゃあ、また!」
ネロとユオと別れ、いそいそとその場を離れる。
気づいたかなぁ。
でも、気が付いたとしても、ネロの事を大切に想っている方の好き、と思われるかもしれない。
「うん。そうだ。その可能性もある。慌てる必要もない。ネロも特に何も言っていなかったし。」
…何も言っていなかったなぁ。
何も言っていないことがいい事なのに、ちょっとへこんだ。
ただの部下って事だよね?
大事にはされていると思うんだけど、でもやっぱり、ネロが会いたいと思っているであろう人が強すぎる。
「よし。お土産でも買いに行くか。」
読んでいただき、ありがとうございます!
よろしければ、
評価、ブックマーク、感想等いただけると
嬉しいです!
よろしくお願いします!




