878話 驚くべき意志の弱さです
「話を聞きに来られない…?そう言えば、さっき、しばらくティエラに帰るって言っていたな。ティエラから、帰って来たばかりなのに、またティエラに旅行するのか?」
まぁ、その反応が普通だよね。
観光部の人たちは、異世界を飛び回り、なかなか戻ってこない事もあるけど、行ったばかりの旅行先に、また行くというのは、やっぱり謎だよね。
「違う、違う。私、地球に帰ることにしたんだよ。」
「あ?だから、地球に旅行するために、帰るんじゃないの?」
「うーん。地球に生活圏を移す的な意味の、帰る、ね。」
「は?」
すると、ユオがネロの方をバッと見る。
ネロは、小さくため息をつき、ユオの無言の質問に、頷いた。
「は?は?」
「だから、その挨拶に来たの。あとは、話も聞けなくなるから、聞きダメしておこうかと思ってね。」
「そんなことしている場合じゃ無いだろ?帰るんだよな?」
うん?
帰るから、ユオに会いに来たんだけど?
「ティエラは、異世界とはほぼ縁がない世界だろ?もっと満喫しておいた方がいいんじゃないのか?最後だろ?」
「チヒロ、おそらく説明が足りていないぞ。」
えぇ?
また?
しばらく、って言ったよね?
しばらく地球に帰るという事は、いずれ戻ってくるって事にならないのか?
「チヒロが、ティエラに帰ることにかんして、衝撃がデカいのか、他の言葉が入って来ていないと見えるな。」
「あははは…」
またか。
またなのか。
「ユオさん?」
「なんだよ。」
「しばらくだから。」
「は?」
いやいや、ユオも自分で言っていたよ?
しばらく、地球に帰りますって。
「しばらく、地球に生活圏を移すんだけど、また戻ってくる予定なんだよね。」
あははと笑いながら言うと、ユオの眉間にしわが寄ってくる。
「先に言えよな。」
「さすがに、分かっていたと思ったよ?ユオも自分で、しばらく帰るって、認識していたみたいだったし。」
「そんな言葉、ティエラに生活圏を移すという言葉で吹っ飛んだわ。」
頼むから、吹っ飛ばさないで。
この話の中で、一番重要と言ってもいいと思う。
なのに、私はここを言い忘れ、他の人は誤解し、大変なことになっているから。
「それで、いつコスモスに戻ってくるんだ?」
「最短で、二年半だね。」
無事に最短で大学を卒業したら、二年半でコスモスに戻って来られる。
二年半で卒業するためには、結構頑張らないといけないんだけど。
なにせ、二年生前半…コスモスで過ごした時間の大学生活は、大変なことになっていたから。
…行っていない割に、甘やかされた成績評価ではあったけど、まぁ、ひどかった。
「二年半?あぁ、それで…」
「なんだよ。」
それで?
それで…って、なんだ?
何かしっくり来たのだろうか?
「チヒロは寂しくないのか?」
「寂しいよ?」
寂しくない訳ないじゃないか。
こっちでの生活が濃厚過ぎて、地球の生活が出来るか不安になるわ。
「それでも帰るのか?」
「うん、帰る。」
「意思が強いな。でも、連絡も取れるんだろ?」
「ううん。よほどの事がない限り、連絡も取らないよ。」
「なんでだよ?」
なんでって。
「そりゃ、会いたくなるからに決まっているじゃん。声なんて聞いた日には、その日のうちに会いたくなって、帰って来たくなるじゃん。」
「驚くべき、意思の弱さだな。」
ちょっと?
さっきは、意志が強いって言ってくれたのに。
まぁ、でも、自分でもグラグラの意思を何とかするために、こういう縛りをつけているんだけどね。
「じゃあ、チヒロの我慢に、他の人間も付き合うのか?」
「え?というと?」
我慢に付き合わせる。
言葉的に、いただけないけど。
「チヒロは、会いたくなるから、声を聞くことすら我慢する訳だろ?」
「そうだね。」
「もし、俺がチヒロの声でもいいから聞きたくなった場合、どうすればいいんだ?」
ユオが、どうしても私の声を聞きたくなる…
そんな事あるか?と思いつつ、確かに、私の縛りを他の人に課しているのは、どうなんだろう。
「あー。そういう場合は、もしかしたら、やむを得ないかもしれないけど。」
やっぱりそんな事あるかな?
そういう事も、もしかしたら、あるのか。
何年も同僚がコスモスに帰って来ないことがあったとしても、どうしようもなく寂しい時は、やっぱり寂しいか。
「なるほどな。言質を取ったからな?」
「いや、うん。」
そこはどうしようもない部分だよね。
私の事は、私が我慢なり、なんなりすればいいけれど、他の人の気持ちまでは、分からないからなぁ。
「だそうですよ。ネロさん。」
「ん?ネロ?」
「はぁ…、企画宣伝課の奴らにも伝えておく。」
いや、そんなに絶対に、連絡よこせ!みたいな催促をしている訳じゃないからね?
連絡が来たら、私が帰りたくなることに関しては、何も変わってないからね?
もしかして、私は早まったでしょうか?
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