872話 もっと一緒に居るために、私は地球に帰る
「それで?」
「だからね、地球には、帰るんだけど、一時的に帰ることにしたの。期間は大学終了の二年半。」
「それは、さっき聞いた。」
そうだけど、ちゃんと腑に落ちている?
「その後は、またコスモスに戻ってくる予定です。」
「へぇ。」
ダメか?
やっぱり、もう事実を言うだけではダメなのか?
「はぁ…もういい。話が進まない。チヒロは、なんでここまで黙っていたんだ?」
「え、それは、コスモスに居たいなぁって思ったり、皆と一緒に居たいなぁって思ったり…あと、ネロと二年半も離れるのが嫌だって思ったから。」
「あのなぁ…」
いや、ネロにはちゃんと伝えた方がいいと思った。
事実だけ伝えても、すれ違ったからね。
ネロと離れるのが嫌だ、ちゃんと本心ですけど?
「なに?」
「はぁ…そこまで、はっきり言うのに、どうして、さっきは言わなかったんだよ?」
「簡潔に事実を伝えた後に、ちゃんと、私の気持ちを述べるつもりでした。でも、ネロが、その話に移行する前に、何かを理解して、飛び出していっちゃったからさ。」
「俺のせいか?」
「いえ、私の話す順番が良くなかったと思います。」
…やばい。
また飛び出されたら、今度は、どこに行けばいいのか分からない。
私がそっとネロの様子を伺うと、ネロは、またため息をつく。
「あのな。チヒロが二年半、会えなくなるのが寂しいと思うのと同じように、俺たちだって…いや、俺だって、そう思った。」
え?
「だって、二年半だよ?慣れているんじゃ…」
もしかしたら、ネロも何かを思ってくれるかもしれない…なんて、淡い期待を持っていたけど、現実的に考えると、アルバートさんが言ったように、たったの二年半だ。
私にとっては、長い二年半でも、異世界…観光部にとっては、たったの二年半なんじゃなかったの?
「もちろん、二年半と数字だけでとらえるなら、大したことがないけどな。でも、お前とは毎日一緒に居たんだぞ?チヒロが起きるのも、チヒロが寝るのも、習慣になるほど、近くで見てきたんだ。」
なんで、起きるのと、寝るのをピックアップするの?
恥ずかしいんですけど。
「それが急になくなるんだぞ?いろいろ思う所があるだろ。」
「…ん?ちょっと待って。じゃあ、教育係として、ちゃんとネロに伝えてから、決めなかったことを怒っているんじゃなくて、ネロも私と離れるのが、嫌だって思ってくれているって事?
すると、ネロの顔がみるみる、歪んでいく。
えっと?
「な、にを言っているんだ。」
「な、何でしょうか…?」
何とも言えない空気。
えっと、ツッコまない方がいい感じ…だよね?
「とにかくだ。」
「はい。」
「チヒロが俺たちに、どう言うか考えている間も、俺は何かあったのかと思っていた。それなのに、大丈夫などと言うし。」
心配をかけてしまったあげく、自分で結論を出して、じゃあこうします…と言われたら、そりゃあ、納得もしにくいよね。
なにせ、ずっとネロに助けられてきた訳だから。
ネロも、私の様子に悩んでいたということだろう。
「ネロ。」
「なんだよ。」
「ごめんね。」
心配かけたのも、一人で悩んでいたのも。
「別に。チヒロがそうしたいと思ったのであれば、俺がどうすることもできないだろ。」
「そうかもしれないけど、ごめん。」
私が同じことをされたら、私だったら寂しいもの。
だから、ちゃんとごめんって言わないと。
「別にいい。また帰ってくるんだろ?」
「うん。絶対に帰ってくる。」
だって、企画宣伝課の皆が…ネロが好きだから。
傍に居たいって思ったんだもの。
ちゃんとやることをやって、私情を挟むんだったら、誰も文句は言わないでしょ。
「ならいい。行って来いよ。」
「うん。行ってくるよ。」
…ネロがニヤリと笑い、いつもの雰囲気が戻ってきた気がする。
さっきの、動揺した雰囲気は、もうない。
「ねぇ、ネロ。」
「なんだ?」
「…あー。そろそろ戻る?私、休憩を貰って、ここまで来ているんだよね。」
「そうだな。」
ふわりと飛んだネロの後をついて行く。
私は、聞こうと思った事が聞けなかった。
お前も俺の前から消えるのか…
あの時に言った、お前もって、ネロがずっと会いたがっている想い人の事ですか?
そこまで動揺するほど、ネロの心に、その人が残っているのだろうか?
「チヒロ?どうかしたのか?」
「え?ううん。大丈夫。早く戻らないと、アルバートさん達に、迷惑がかかっちゃうよ。」
「かければよくないか?」
「よくありません。」
私の気持ちがネロに透けない様に、ネロをムギュっと掴み、そのまま企画宣伝課のオフィスへと戻った。
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