86話 ある日の修羅場部屋
ミシュティの宣伝の仕事をしっかり終えて、次の旅行先が決まるまで、仕事がひと段落するかと思いきや、私は絶賛、事務作業に追われていた。
そういえば、企画宣伝課って忙しいって言っていたっけ。
新人として、いかに甘やかされていたかが、よく分かった。
旅行先が決まっているときより、旅行先が決まっていないときの方が忙しい。
ひたすらデータ整理。
そして、事務仕事をこなしていて、私は盛大な間違いに気づいてしまった。
企画と宣伝。
てっきり、お客様と直接、具体的な話をするのが企画の仕事だと思っていたんだけど、まず直接対面での接客ではなく、電話もしくはメール、そして、カメラ通話だったこと。
よく考えれば、このオフィスに、お客様が来ているのを見たことはない。
つまり、観光についての相談は、お問い合わせという形でくる。
まず、定型の文章に、観光先のイメージ等を打って問い合わせフォームに送ってもらい、そこから、文章案内や音声案内、カメラ通話の適した接客に移り、旅行についての提案をしていくわけである。
この、お問い合わせというのが、とにかくいっぱい来ている。
こういう旅行先を探しているのですが、という問い合わせや、旅行先のおすすめスポット、おすすめの回り方等々。
私が今やっていることは、お問い合わせの仕分けである。
ある程度、同じお問い合わせをまとめた方が、調べて答えるのが楽なんだそうだ。
デスクトップデバイスのデータ整理。
ちなみに、デスクトップデバイスは、地球でいうところのデスクトップパソコンのことである。
旅行から帰ってきて、報告を終えて、しばらくは、ずっとパソコンとにらめっこをしながら、キーボードをパチパチ叩いている。
ジェフティさん達にお土産を渡しに行けてないんだよな。
飴って腐らないよね…。
お土産って、旅行に行ってから、いつまでに渡したらセーフなの?
そんなことを考えていると、企画宣伝課のオフィスに、人が訪ねてきた。
「ジェフティさん。」
「お久しぶりですね。チヒロさん。」
「お、お久しぶりです。」
ジェフティさんのことを考えていたため、姿を見て驚いた。
「アルバートさんはいますか?」
そういえば、アルバートさんってどこ行ったんだろう。
「チヒロ、旅行先の問い合わせは、まとまった…あら、ジェフティじゃない。」
「まとめたものメールで送りますね。」
「ありがとう。ジェフティは、こんなところで何を?」
「アルバートさんと、フェリシアさん、それからチヒロとネロに用がありまして。」
ん?
私も?
なんだろう。
「課長は、今お散歩に出ていますけど。呼び戻します?」
お散歩…?
道理でいないと思ったら。
「忙しそうなところ申し訳ないのですが、できればそうしていただけると」
また次の機会に、ではなく、今なんだ。
そんなに、急ぎの用なのかな。
「やあ、久しぶりだね。元気だったかい?」
「よう。旅行帰り振りだな。」
えぇ?
アスガルさんとオーロックさん?
ほんとに何だろう。
「そもそも、企画宣伝課は忙しいから、報告を聞きに行くことができないという、アルバートの言葉に、わざわざ来たというのに。本人が不在とはどういうことだい?」
アスガルさんが、笑顔で圧をかけてくる。
この感じ、お久しぶりです…
私は、笑顔の圧を避けつつ、オーロックさんの方に行く。
「オーロックさん、挨拶に行くといって、結局行けずじまいでした。すみません。」
「いや、忙しいと思っていたし、大丈夫だ。」
私は、オーロックさんがにっこり笑ってくれる笑顔に安心した。
同じ笑顔なのに、なんでこんなにも心理的影響が違うのだろう…。
「お、来てるね。お待たせしてしまったかな。」
すると、ドアの方からアルバートさんが戻ってきた。
「さて、あっちの部屋で話をしようか。」
確かに修羅場部屋では、落ち着いて話もできない。
アルバートさんは、私たちを修羅場部屋の奥の部屋、会議室に促した。
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