9話 改めてよく読もう
「間違えて登録したってことは、求人情報の内容は、ちゃんと見られてない感じでしょうか?」
「すみません。見てないです」
「では、私から説明させてもらってもよろしいですか?」
「お願いします」
そういうとアンジュ君が、奥の部屋から書類を持ってきてくれた。
本日この短時間で、この美人たちを何度困らせたのだろうか。
そりゃ困るわ。
「まず、ここがどういう所か、説明させていただきますね。ここは、中央都市コスモスという国で、私たちが働いている場所はコスモスの役所、観光部という部署の企画宣伝課という課に所属しています。」
「あの、コスモスという国についてはお聞きしてもいいですか?」
「そうですね。
コスモスの一番の特徴ともいえるのですが、うちの国では 空間転移の魔法が優れておりまして、それを使って様々な世界にゲートをつなげ、コスモスと異世界をつなぐことができるんです。
いわば空港みたいなところでしょうか。
そんな訳なので、異世界旅行を中心とした観光産業には、すごく力を入れているんです。
商業エリアの方に行くと、いろんな時空の名物とかあって楽しいですよ。」
うすうす気が付いてはいたが、空飛ぶしゃべる猫や車、いかにもな、瞬間移動装置。
異世界…
だろうな!
ここまで気が付かないふりをしてきたけど、そうじゃないかと思っていたよ。
日本には、異世界に飛ぶ話が五万とあったし、むしろ侯爵令嬢とか悪役令嬢に転生する話もあったし、そういう物を読んでいた身としては、気づきたくなかったがそうだろうよ!って感じである。
「次に観光部について説明するのですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「わかりました。世界を飛ばれて来てお疲れだと思うので、無理だと思ったら言ってください。」
フェリシアさんが優しく微笑んでくれて、アンジュ君は冷めたお茶を入れなおしてくれた。その気遣いがとても嬉しく感じた。
「コスモスにおいて観光部というのは、先ほどお話しした通 り、すごく力を入れている部門なんですが、観光部の中でも、いろんな仕事があるんです。
例えば、新しい世界を見つけるべく、異世界へとつなぐゲー ト内を調査する調査課。
調査した異世界とコスモスをつなぐために交渉する営業課。
異世界のものを他国に持ち込んでいいのか、影響は出ないの かなど商品についてのエキスパート集団である流通課。
異世界について文化、歴史などを研究する研究課、などほか にも技術課や製造課などがあります。
課は、それぞれの分野において秀でているエキスパートの集 団って感じですね。
そんな中で私たちは、異世界旅行についてのプランを立てる 企画とそれを宣伝する宣伝の二つを主な仕事としています。」
「企画と宣伝って、仕事一括りなものですか?」
「もともとは企画課と宣伝課、別々の組織で私たちは企画課の方に所属していたんですが、宣伝課が解体されまして、どこと一緒になるのが一番いいかという話し合いの時に、課長がいなかったのと、企画したのなら責任もって宣伝しろよという上からの指示で、こういう形になりましたね。」
「そもそも、適当に仕事して異世界とのパイプを崩しかけた宣伝課のせい」
「圧倒的人員不足によりこうするほかなかったらしい」
フェリシアさんの説明に毒づくように、アンジュ君とアンヘル君の補足説明が入り、思わず苦笑いをした。
「人員不足だったから、求人情報出していたんですね。」
「そうです」
「でも、それぞれの分野においてのエキスパート集団を、あんな求人広告で募集していいんですか?」
「宣伝課の解体の原因を作ったのは上層部だっていうことを盾にして、求人広告を出すことを頷かせたんだよ。うちの課長が。」
「上層部の一人が、ある異世界について、あることないことを宣伝課に吹き込んで、そのままメディア媒体に乗せたんだ」
「それに気づいたのがうちの課長で、割とすぐに回収できたからすごい影響が出たわけじゃないんだけど」
面倒くさそうに話すネロの言葉に、アンジュ君アンヘル君と続く。
企画課のメンバーは、上層部の問題を起こした人と宣伝課の人たちを結構恨んでそうである。
「なんか大変なんですね」
何ていっていいかわからず、とりあえず乗っかっておこうという精神が駄目だった。
地雷を踏んだ。
「大変なんてもんじゃない。いままで、新たに発見されてきた異世界へと向かうプランを立て、既存の異世界について新プランを立て、旅行者が望むプランをそれぞれ組み続けているんだ。言っただろ?コスモスにおいて異世界旅行は名物なんだ。それだけ客も来るんだよ。旅行客の対応だけでも手一杯だったのに、そこに宣伝なんてどうやるんだってことだよ。」
「あーなるほど」
確かにお客さんが望むプランを立てるためには希望を聞かなきゃいけないわけで、その分対応もしてかなくてはいけない。
今、企画宣伝部課にいるのが、フェリシアさん、アンジュ君アンヘル君とネロ。
他にもいるとは言っても…うん、大変そうである。
「そんな訳で、チヒロさんには企画宣伝課に入っていただきたいのです。」
「いやでも、私は旅行するためにここに来たわけですし、今回はちょっと。」
だって、異世界で働いてくださいとかちょっと聞いてない。
それに、旅行する予定だったけどこんな遠出?するつもりもなかった。
知り合いに会わなければそれで良かった訳だし。
エキスパート集団の中に一般ペーペーがいるのって割と大変だし。
脳内で言い訳をつらつら思い浮かべて、やはり断ろうと結論が出たときに
「求人情報ちゃんと読んだ?」
「あぁ、そうだったな。ちゃんと読んだか?お前。」
アンヘル君が顔を覗き込み、声をかけてきた。
そして、ニヤァと笑ったネロの顔を見て何か嫌な予感がする。
旅行サイト、もとい求人サイトを開き、端から端まで読む。
そして、※詳細はこちらと書かれた文字を再びタップして求人募集ページを読む。
仕事内容やサポートの充実性などの手厚い福利厚生が書かれている一番下に再びコメ印(※)を見つけた。
※登録に関しての注意
本サイトに登録された場合、直ちに契約完了とする。
登録してから、二年間、登録解除申請は行わない。
もし、登録解除の申請を行う場合は、本サイトは違約金を請求するものとする。
なるほどね。
異世界の話をバンバンすると思ってはいたが、断らせる気なかったってことね。
「詐欺だ…」
「人聞きの悪いこと言うなよ。ちゃんと読まないお前が悪い」
おっしゃる通りです。
「ほんとはその文章なかったんですけど、そしたら登録して、やっぱりやめます!が続出してしまいまして。これではどうしようもないとなり、この文章を足すことにしたんです。」
「クレーム出るって言ってましたもんね…」
申し訳なさそうにするフェリシアさんを見て反論する気が失せた。
「とはいっても、その文章をノリノリで付け加えていたのは、フェリシアだけどな」
「どちらかというとフェリシアがクレーム出してた。仕事舐めてんのか?って。」
えっ??フェリシアさん?ヤ●●か何かかな?
「まぁ、そんなことは置いておいて、今日からよろしくお願いね。チヒロちゃん」
「よろしく、チヒロ」
「一緒にがんばろ、チヒロ」
「さっさと働けよ?チヒロ」
あ、さっきまでの和やかで優しい雰囲気は、対お客様用の芝居だったのですね。
思わぬ形で、異世界に来て関わっていくことになり、これだけは心に決めた。
契約書は最後まで読もうと。
1話からの9話の一気の投稿になりました。
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