79.5話(2)番外(ビスクートSide過去)夢を思い出させてくれた、友人に感謝
年が経つにつれて、ミシュティに甘いもの文化から、お菓子の文化が広がり始め、お菓子を食事にとるのが当たり前になった。
そして、ザナおばあちゃんが、亡くなった。
お菓子の城の夢の話をしたとき、おばあちゃんは、私もお菓子の城が憧れだったのよと言っていた。
結局、見せてあげることはできなかったし、いまだに、お菓子の城に住むという夢の実現はなされていない。
俺は、コツコツ、お菓子のパーツを組み合わせながら、スモールサイズの城づくりに勤しんでいる。
お菓子の城を作るのは、お菓子作りの技術があればなんとかなる。
魔力のコーティングにより、保存も多少は効くから数日くらいなら、小さいサイズは何とかなるんだけど。
これに人が住むとなると…
「体がベトベトになりながら、住まなくちゃいけないな。」
全然うまくいかない。
夢を掲げたはいいけど、見通しが立たない。
がむしゃらにやっているだけじゃ、ダメなのか。
先が見えない…。
「ビスクート、何やってるんだ?」
「うわぁ!グラース兄さんか…。驚かせないでよ」
「驚かせようとなんて、思ってないからな…。」
窓枠から、侵入して声をかけてくるなんて、驚かし以外の何だというのだ。
「また抜け出してきたの。年齢が上がっても、抜け出し癖が消えないね」
「抜け出しじゃない。視察だ。」
「そういうことなら、ちゃんと護衛の人に伝えてあげなよ。」
俺がそういうと、グラース兄さんは、目線をそらした。
悪いと思ってるなら、ちゃんと言ってあげなよ。
振り回される身にもなってくれ。
俺は、ビスクート兄さんを、ジトっと見ると、慌てて話をそらされた。
「そ、そんなことより、外行くぞ。」
「行かないよ。俺、今お菓子のパーツ作ってるんだから。」
「行くぞ。今回は、ほんとに視察だ。」
「なおさら、なんで俺が行かなきゃいけないの。」
俺は、お菓子の研究がしたいんだ。
実現したい夢があるから。
「とにかく、行くぞ」
「はぁ?」
俺の思いなど関係なしに、グラース兄さんは、俺を家から連れ出した。
「それで、どこに行くの?」
「なんだよ、ご機嫌斜めなのか?」
「当たり前だろ、俺はやることがあるって言った。」
「はいはい、分かったって。」
ふてくされている俺の頭を、グラース兄さんはわしゃわしゃと撫でるから、いまだに俺は子ども扱いなんだと、重いつつ、心配させていたことに申し訳なくなった。
「行くから…撫でるの、やめて。それで、本当にどこへ行くの?」
「城の裏のほう」
「なんで、そんなところに?」
「なにが原因か分からないんだが、甘いにおいがするんだと。」
甘いにおい?
そんなもの昔からしてたような。
今更、気になるようなことか?
「最近、特に匂いが強くなったって報告が来てな。それで見に行ってこようかと。」
ん…?
ちょっと待て。
「お城にそういう報告が来てるなら、正式に視察に行けばいいだろ。なんで内緒にしていくんだよ。」
「護衛とかどうも苦手でさ。」
「はぁ?それは慣れろよ。何があるか、分からないんだから。」
あり得ない…。
このひとは、ほんとにあり得ない。
確かに、平和な世界だけど、この人には、王族という自覚があるのだろうか。
グラース兄さんと言い合いをしながら、お城の裏側のほうへ歩いてきた。
スン…
甘いにおいがする。
確かに、昔はこんなに強い匂いじゃなかった。
「あ、来た来た」
「姉さん…」
やっぱり、いたんだ。
こういう、いかにも好奇心がくすぐられます、みたいな所に、姉さんがいないはずないから。
「この辺が、一番匂いが強い気がするんだけど、何もないのよね。」
「どういう現象なんだ?」
この二人は、結構な時間、この辺りをすでに探索しているのだろうな。
でも、満足するまで、途中でやめないから…。
そう思い、生い茂った草をかき分けながら、探索の手伝いをするのだった。
「なにもないね」
「あー、なんでなんだ。」
「お腹すいた…」
そういえば、今朝作っていた、お菓子の試作があったな。
「これ、あるけど食べる?」
「お、ビスクートの手作りお菓子、ありがとな」
「ビスクートったら、年々、お菓子作りうまくなっているんだから。」
そういいながら、俺が作ったお菓子を、二人は受け取った。
姉さんは、お菓子を手に取ると、すぐに口の中に入れて、顔をほころばせた。
「……」
グラース兄さんは、俺が作ったお菓子を怖い顔をして、見つめていた。
「グラース兄さん?」
「お前、この作ったお菓子は、魔力でコーティングしてあるのか?」
「そうだけど…それが何?」
俺の言葉には返事をせず、グラース兄さんは、真剣な顔で辺りを見回し、何かを探し始めた。
そして、立ち止まる。
「ここだな。」
「なにが?」
「この下に何かある。」
指をさしたのは何もない地面。
この下に何かあるって、どういうことなのだろう。
兄さんは、地面の魔力と共鳴して土を掘ろうとしている。
「よいしょ」
「おい、ジェリ」
なぜか、兄さんが指をさしていた場所に、姉さんは、思いっきり乗って踏み抜いた。
踏み抜いた?
姉さんが、地面の中に消えていった。
「おい、ジェリ、大丈夫か?」
「平気よ、二人とも気を付けてね」
姉さんに言われたくない。
姉さんが待つ場所に、二人で慎重に下りていった。
「姉さん、怪我はない?」
「平気よ、これくらいじゃ、怪我しないでしょ」
すると思う…
なんで、怪我しなかったんだろう、この人。
「匂いが濃いな…。やっぱりこの先に何かある」
進んだ先は、広い空間。
そして、あたり一面が琥珀色。
「なに、ここ?」
「こんな場所があったんだ…」
俺と姉さんは、この空間に言葉を失っていたが、グラース兄さんは、あたりを見回すと、奥の方に歩いて行った。
さらに、透明度の高い琥珀の空間。
そこにも、目をくれず、さらに奥へと進んでいく。
こんなきれいな空間を見もせずに、奥に何があるというんだ?
そして、ようやく兄さんが立ち止まった。
天井には、大きな穴が開いていて、そこから、太い光が差し込む。
その中央に、琥珀色の石が置かれていた。
「ここだな…」
「何ここ…」
「あの光の中央にある石、あれが元の石だな」
「元の石?」
「あの石が、魔力が一番強くて、濃い。それに、お前の作った魔力でコーティングしたお菓子に反応してる。俺がここを見つけられたのも、それのおかげだ。」
お菓子にコーティングした魔力に反応…。
「そのお菓子貸して。」
兄さんの手から、半ば奪うように、お菓子を取る。
そして、琥珀色の石の魔力と、俺の作ったお菓子の魔力を共鳴させ、混ぜ合わせる。
強くて、濃い魔力ならできるかもしれない。
集中して、繊細に。
混ぜ終えて、そっと目を開ける。
「で、出来てる。」
コーティングしたお菓子が安定している。
「兄さん!」
そういうと、グラース兄さんも理解したのか、俺を抱きしめ、髪の毛をグシャっと撫でてきた。
「やったじゃないか。これで、お菓子の城ができるかもしれない。」
「この石を発見したのは、兄さんだから、兄さんが発表して。」
「はぁ?何言ってるんだ。お前がやれよ。」
「ダメだよ。ここからは、俺じゃできない。王族である兄さんではないと、できないと思う。」
「だが…」
「俺じゃ、発見できなかった。だから兄さんがして。」
兄さんは、悔しそうな顔をしている。
相変わらず、正義感が強いね。
でも、俺はここを譲らないよ。
姉さんは、そのことを分かってか、黙ってくれている。
「俺たちの夢を叶えてよ、兄さん。」
そうして、兄さんはこの洞窟をカラメオの洞窟、俺の加工した石を宝飴の石と名付け、城へと持ち帰ってくれた。
そこからは、さすが兄さんという感じで、やるときはやる精神でどんどん話を進めていった。
そして、ミシュティは自然豊かな国と同時に、お菓子の国という冠をかぶった。
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「俺も夢を叶えてもらった方だな。」
お菓子の城を見上げながら、そんなことを思う。
「なにしてるんだ?」
「兄さん。兄さんには、大役を押し付けたなぁと。」
俺の言葉に、グラース兄さんは、むっとした。
「そうだぞ。いつも俺が振り回してるみたいに言っているが、お前は、大きいものを投げてきすぎだ。俺の方が小出しにしてる分ましだ、絶対に。」
「確かに、そうかも。」
俺たちの夢を、また繋いでくれたチヒロとネロ。
夢を見せてもらったのは、俺たちの方だと思う。
そう思いながら、友人二人に感謝をするのだった。
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