79.5話(1)番外(ビスクートSide過去) 3人の夢の始まり
「ミシュティの技術は、他の世界でも重宝される」
「焦る必要はない」
「ミシュティは、私の夢を一つ叶えてくれた場所です。」
「小さいころ、お菓子の城に憧れていたんですけど、無理なんだろうなって。」
「夢を叶えてくれてありがとうと言う、感謝の気持ちでいっぱいです」
チヒロとネロがコスモスに帰った。
二人の言葉は、まっすぐで。
だからなのか、昔を思い出した。
ミシュティがお菓子の国になった日を。
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「ビスクート、起きろって。置いてくぞ」
「んん…」
「ビスクート?」
誰かの呼びかける声に、ゆっくりと目を開ける。
するとそこには、グラース兄さん。
「グラース兄さん?」
「なんでこんな所に、寝てるんだよ。ジェリが待ってるってさ」
「姉さんが?というか、グラース兄さん、お城、また抜け出してきたの?」
「そんなこといいんだよ。ビスクート、ばれる前に行くぞ。」
「もうバレてるんじゃない?」
グラース兄さんは、俺を置いてどんどんと走って行ってしまう。
グラース兄さんは、王族で現王の一人息子なんだけど、しょっちゅう、お城から抜け出しては、城下町視察という名の散歩を行っていた。
ちなみに、僕と姉さんが、グラース兄さんに会ったのも、兄さんがお城から抜け出したことがばれて、城の人から追い掛け回されてたのに、巻き込まれたことが、きっかけだ。
そこから、俺と姉さん、グラース兄さんの付き合いが始まった。
いわば、腐れ縁である。
草原を走っていくと、一人の女性が、立っている。
明るい茶髪のロングストレート、目は透明度の高い赤色。
俺の姉さん。
「遅いよ、待ってたのに。」
「ビスクートが、よく分からないところで、寝てたのが悪い。」
「俺のせいなの?」
「お菓子がなくなっていたら、ビスクートのせいね。」
「姉さんまでそんなこと言う?」
俺と姉さん、そしてグラース兄さんがこれから行く場所。
それは、スイーツハウス“クレーム・シャンティ”
ミシュティにおける、大人気のお菓子のお店。
「いらっしゃいませ。あら、また来てくれたのね。」
出迎えてくれたのは、優しいおばあちゃん。
ザネおばあちゃん。
背が小さいんだけど、とても大きな包容力がある、甘えたくなるおばあちゃんで、ミシュティにお菓子を広げたミシュティのレジェンドらしい。
元々、甘い文化だったミシュティに、お菓子という更なる甘さを広げた人。
お菓子といえば、“クレーム・シャンティ”というくらい有名なお店で、お菓子作りをしたくなったら、この店に訪ねて教えてもらうという人が続出するほどだった。
「今日は、何にするのかしら?ここで食べていく?持ち帰る?」
「食べてく。チョコレートケーキ」
「私は、シュークリームがいい」
グラース兄さんも姉さんも、甘いものが大好きで、ここに通い詰めており、常連の風格である。
「ビスクート君は?」
「俺は、タルト」
「分かったわ、今持ってくるわね。」
そういって、おばあちゃんは部屋の奥に入っていった。
しばらくして、ケーキの乗ったトレイをもって、奥から出てくる。
おばあちゃんが持てなかった分は、もう一人の女の子が持って外に出てきた。
「ベニエ、手伝ってくれてありがとうね。」
「好きで手伝ってるの。だって、おばあちゃんのお菓子を、いろんな人に食べてもらいたいもの。」
「よう、ベニエ。」
グラース兄さんは、ここぞとばかりにベニエに絡みに行く。
「また、内緒で来たんですか?怒られますよ。」
「一応、忍んで来てるんだから、やめろよ。」
グラース兄さんとベニエがにらみ合っていると、二人の頭をポカっと、ザネおばあちゃんが小突く。
「ケンカしないのよ、せっかくの甘いお菓子が台無しでしょ。おいしく食べて。」
そして、ふんわりと優しく微笑んだ。
そんなおばあちゃんを見て、俺はどうしても聞きたいことがあった。
「おばあちゃんは、どうしてミシュティでお菓子を広めようと思ったの?」
「そうねぇ…。ビスクート君たちは、お菓子をどうして食べる?」
その言葉に、おばあちゃんは少し考えた後、逆に俺たちに質問をしてきた。
「俺は、好きだからだな。」
「私も、好き。」
グラース兄さんと、姉さんが割って入ってきた。
俺は、どうしてかな。
「私も好き。甘いもの。おばあちゃんのお菓子を食べると幸せになるもの。」
ベニエ…。
「俺も好き。」
「私、もっともっとミシュティには、お菓子が広がればいいと思う。そして、笑顔がいっぱいになるといいよね。」
「いいな、それ。お菓子に囲まれて暮らす。お菓子の城とかいいんじゃないか?」
「お菓子の城に住みたいわね」
お菓子の城…
俺の好きという言葉に、姉さんと、グラース兄さんが乗っかってくる。
「あらあら、いいじゃない。素敵な夢よ。」
ザネおばあちゃんの言葉に、お菓子の城を作ることが、俺たちの目標になっていた。
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