79話 消えてしまった、子供のころの夢
異世界転送装置、久しぶりに見るな。
5日ぶりとか?
「チヒロー」
ミシュティの入り口の方から、メルとビスクートさんが走ってきた。
目の前に着くと、大きく一呼吸をして、二人は、にっこりと笑った。
「間に合ってよかった。最後、会えないかと思った」
「ほんとに。城から走って来た甲斐があったな」
お城から、ここまで走って来たの?
それで、呼吸一つで落ち着いちゃう体力の方に、私は驚いているんだけど。
「来てくれてありがと。」
「ううん。私が来たかったの。」
「グラース兄さんと、姉さんも来たがっていたけど、さすがに止められて残念そうにしていたよ。」
王女様がここにいるのも大丈夫かなという感じなのに、王様と王妃様がお見送りにきていたら、さすがにまずいと思う。
ということは、グラースさん、ジェリさんとの思い出は、あの賑やかな朝になるのか…。
うーん。
会いたかったかも。
「チヒロ、改めて本当にありがとう。ネロもありがとう。」
「こちらこそ、ありがとうだよ。メル。」
「世話になった。」
「二人と探検できたこと、楽しかったよ。」
「ミシュティの歴史を見れて、嬉しかったです。」
「あの、洞窟は興味深かった。よかった。」
お互い挨拶を交わし、握手をする。
すると、メルが何か言いたそうにしていた。
「どうしたの?メル。」
「あのさ、ミシュティの旅行が初めてと言っていたじゃない?」
そういえば、そんなことも言ったね。
「ミシュティは、どうだったかなと思って。」
どうだった…
楽しかったけど、それだけでは、ないよね。
「ミシュティは、私の夢を一つ叶えてくれた場所です。」
「夢?」
ビスクートさんは、驚いた様子を見せ、問いかけてくる。
「はい。私は、小さいころ、お菓子の城に憧れていたんですけど、年齢が上がるにつれて、現実ではありえない架空の物として見るようになって、無理なんだろうなって思っていたんです。異世界にきて、旅行先が自分で選べるってなった時、お菓子の国という文字を見て、ワクワクしました。そして、私は、ミシュティに来て、夢を叶えてくれてありがとうと言う、感謝でいっぱいになりました。」
「夢が叶う、か…」
小さいころに持っていたいろんな夢。
魔法少女になりたい、お姫様になりたい。
だけど、年齢が上がるにつれて、どこかに消えてしまった夢たち。
いろんな経験をして、考え方が変わっていく過程だから、それが決して悪いことではないと言えるのに、どこか寂しく感じる消えた子供のころの夢。
それの一つを私は、叶えられた。
それって、最高に幸せじゃない?
「どちらかというと、夢を見させてもらったという感じですが。」
自分で勝ち取ったものではないからね。
あくまで、叶えてもらったという感じだけど、それでも忘れてなかった、あの頃のキラキラした感情に、私は嬉しくなったんだ。
だから、最大限の感謝をお世話になった方たちに。
感傷に浸りそう。
すると、メルがいきなり抱き着いてきた。
な、なに?
メルは、抱き着いたまま、手をさわさわと動かしてきた。
「え…ちょっと、くすぐったい!メル、ちょ…」
なになになに?
メルは、離れてそっぽを向いた。
「聞いといて、なんだけど、思ったよりも、ちゃんとした答えが返ってきて、なんとなく」
なんとなくで、くすぐってくるの、やめてもらっていいですか?
はぁ、びっくりした。
一呼吸着くと、再びメルが抱き着いてくる。
ちょっと身構えるんだけど。
「もうしないって。」
「ぜひ、そうして」
「寂しくなるね」
「また会いに来るし、メルも異世界旅行に興味が出たら遊びに来て」
抱き着いた状態から、体を離し、二人で笑い合う。
その横で、ネロとビスクートさんは、私たちの様子を眺めていた。
「俺ら置いてけぼりじゃない?」
「好きにしたらいいんじゃないか?」
「じゃあ、俺らもする?」
「誰がするか。」
相変わらず、ネロは塩対応なんだから。
「満足したのか?」
「まあね。じゃあ、ネロ。帰ろうか。」
「そうだな」
ベニエさん、メル、ビスクートさんに手を振り、私とネロは、異世界転移装置の中に入る。
お土産で買ったミシュティのものをしっかりと申請する。
それからネロを同行者に設定して、行き先をコスモスにする。
異世界転移装置が起動し、転送が始まる。
外を見ると、メルたちが手を振ってくれていた。
それを見て、ネロと顔を見合わせ、にやりと笑う。
「またな」
「また会おうね」
私とネロも、思いっきり手を振った。
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