72話 内緒話は、周りに注意
「姉さん帰ってきたし、俺、代理で王様やるの、もう嫌なんだけど。」
「……。」
えっと、整理したいんだけど。
帰ってきたという言葉通りなら、ビスクート王のお姉さんというのが、ジェリさん。
ジェリさんは、グラースさんの奥さんだから、ビスクート王とグラースさんは、義兄弟ってことね。
ここまでは、分かるんだけど、王様に戻るっていうのは、どういうことだろう。
ビスクート王は代理で、と言っているし、元々は、グラースさんがミシュティの王様で、今は、代わりにビスクート王が王様をやっているということかな。
「いつまでも、俺が王様やってると、何一つ決まっていかない。俺は、あくまで代理王だからね。」
「分かってるさ。お前に代わりでやってもらっていたのは、俺の目でミシュティを調査したかったからだ。」
「兄さんさ。今の生活、なんだかんだいいなとか思ってるでしょ?」
ビスクート王の言葉に、グラースさんが、ばつの悪そうな顔をしている。
あれは、図星ですね。
「ということで、逃げられないように、周知させようと思って。」
「?」
そう言うと、ビスクート王は、私たちのいる方をちらりと見た。
手伝えってそういうこと?
うわぁ、使われた。
ビスクート王は、にやりと笑っている。
これは、出て来いということですかね。
出て行きづら!
「あの…、聞いてしまいました」
「いつからそこに」
「ずっと…ですかね」
私とネロの登場にグラースさんは、目を見開いた。
「ビスクート、お前なぁ。」
「背中を押してやったんだから、感謝してほしい。」
「お前は背中を押したんじゃない。押し付けたんだ。」
「元々、兄さんの仕事だろ?」
ビスクート王は、ジトっとした目でグラースさんを見つめ、グラースさんは、押し黙る。
いやいや、ほんとにどなた?
あの口調が柔らかなグラースさんとビスクート王は、何処に。
「巻き込んで悪かったな」
ビスクート王が、私とネロの方を向いて、謝ってきたのだけど。
「巻き込むつもり満々でしたよね、ビスクート王」
「もう王様じゃなくなるけどね。」
嫌味いっぱいに言ってみたが、笑顔で躱されてしまった。
「話は隠れていたとき聞いてしまったが、良かったのか?」
「いいわけな…」
「聞かせるつもりで、話していたからね。」
ビスクート王?
グラースさん、いいわけないって言いたそうでしたけど。
「兄さんがどうしても、自分で調査したいっていうから、中身だけ俺に代わっていたけど、民には伝えていないから、影武者をしていただけなのに。兄さんが俺のこと、現王とかいうから。まったくどういうつもり?」
「観光部から来たというから、チャンスだと思ったんだよ。しかも、解決策を打ち出してくれたわけだし。」
「兄さんが連れてきてくれたおかげで、俺は王様をやる羽目になったけどね。」
グラースさんと、ビスクート王の兄弟の言い合いって感じ?
見ていて面白いけど。
「チヒロ、ネロ。ごめんね。結果的に騙すみたいになってしまって。」
「事情があったみたいですので、平気です。」
「別に俺らの仕事に影響があったわけじゃない。」
ビスクート王…ビスクートさんを見ていて気がついたんだけど、この人あれだ。
自由気ままな義兄と破天荒な姉を持つ、苦労人の弟。
そんな感じがする。
今思うと、ビスクートさん、グラースさんのこと私に聞いてきたもんね
グラースさんも、ミシュティのことを異常に気にしていたし。
グラースさんのお城での立ち位置とか、不思議に思うことはあったけど。
そういえば、旅行ガイドには、王様のこと載ってなかったんだよな。
そりゃ、分からないって。
というか、グラースさんが王様なら、メルは王女様で、ジェリさんは王妃様ってことだよね。
私、王族の人たちになんて振る舞いをしていたんだ。
不敬罪とか散々騒いでたけど、ミシュティ滞在中のほとんどがそれに当たらない?
私は、罪に問われなくてよかったと思いつつ、冷や汗が止まらなかった。
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