658話 花火が刻む夏
花火はまだまだ続く。
私たちは、夜空を見上げながら、おしゃべり。
最初は花火を見るなり、皆が黙ってしまって、焦ったけれど、悪くなかったみたいだから、良かった。
普通、いつも賑やかな人たちが、きっと賑やかに盛り上がってくれるだろうと思っていたのに、皆黙っているんだもん。
驚いたし、何か気に入らなかったのかな…って思ってしまうのも仕方がないよね。
「花火が消える前に、次の花火が打ちあがるから、なかなか消えないわね。」
「多い時には、何万発と打ちあがる時がありますからね。」
「何万発?そんなに?」
「はい。一時間くらいは、上がり続けるんじゃないですかね?」
普通の花火大会で、どのくらいの時間なんだろう?
普通の花火大会でも、三十分くらい続くよね。
それ以上の時間、花火が上がるなら、それ以上の時間続くよね?
「時々上がるハートの形の花火とか、テンション上がるよなぁ。」
「僕、星型がいい。」
「俺も。」
「私は、猫がいいわ。」
丸だけじゃなくて、時々上がる、マークの花火。
どうやって、作るんだろう。
丸なら、何となくイメージが出来るんだけど。
「花火って、どうやって打ちあがっているんだ?」
「私のイメージだと、こういう丸い球を打ちあげるイメージですね。」
手で、花火の球を表現するんだけど、いまいちしっくりこない。
いや、丸も全然、イメージできなかったわ。
というか、花火玉なんて見たことないし。
打ちあがった花火が丸いなら、球体のものがあがるのだろう、きっと。
「丸い球が、ああいう大きい華になるのか。不思議だなぁ。」
「すごいなぁ。」
「いやぁ…不思議ですよねぇ。すごいですよねぇ。」
いや、マジで不思議。
まじすごーい。
あははははは…
笑っていると、花火がいったん止む。
時間的にも、そろそろラストスパートだろう。
ラストスパートの大連発。
「そろそろ始まりますね。」
「なにが?」
「終わりの前の、大輪の華です。」
すると、一発パンと上がる。
今までよりも、一番大きな花火が。
「うわぁ。」
「でっかぁ。」
まだまだですよ。
これから、これから。
来ますよ。
大連発。
「うわわわぁぁ。」
「すごっ。すごい。」
空に向かって手を伸ばすアンジュ君とアンヘル君。
他の皆も最後の花火に盛り上がっていてくれるみたいだ。
最後の大連発って、花火大会はこれで終わりだけど、ちょっとでも多くの人の心に残るように、大きく遠くまで、そして最後の最後まで、心から消えない様に、刻み込まれるように上がる。
一瞬で消えてしまう花火だけれど、それでもなお、心に残る花火。
これで夏は終わる。
夏が終わると、また憂鬱な日常が始まるけど、でも夏の花火を思い出せるように。
花火の最後の大連発を見ると、そう思う。
「最後に咲かせる華か。言い得て妙だな。」
「でしょ?いい表現したと思うんだけど。」
「自分で言わなければ、なおいいんじゃないか?」
ちょっとネロ?
どういう意味だ。
言っても言わなくても、言葉の価値は変わらんだろうが。
「最後の最後の悪あがきって、ところか?」
「ちょっと。もっと、いい表現できないの??」
「それこそ、チヒロが言っていた生きざまって、やつじゃないか?最後に咲かせる大輪の華なんだろう?そして、散っていく。」
シュワシュワっと、音を立てて花びらが下へと下っていく。
「終わっちゃうなぁ。」
花火が終わる。
そして、夏も終わる。
そう言えば、私の夏休みもあと少しだったような。
あれ?
私の夏休みって、いつまでだったっけ?
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