618話 弱肉強食と食物連鎖
「ここがティエラの博物館かい?」
「そうですね…」
でかいな。
ニホンで有数の博物館だとは、調べて知っていたけれど、こんなに大きい物なのか。
私の大学と同じくらいの規模…?
いや、大学の規模なんて知らないけど…
夢のテーマパークと同じくらい…?
いや、そんなにないか…
でも、とにかく大きいことが分かった。
これは、期待大じゃない?
「へぇ、ここにティエラの歴史がある訳か。」
「パンフレットが入り口に置いてあったよ。」
「なるほど、科学と生物、地球の生い立ち、絶滅した種…コーナーごとに分かれている訳だね。」
「古代生物かぁ。ワクワクするなぁ。」
…あれ?
今思ったんだけど、アルバートさんとカイン君を案内するのって、それはそれはハードルが高いのでは?
アンジュ君とアンヘル君の時は、二人が私の事を頼ってくれていたし、リリスさんとフェリシアさんの時は、二人の周りが見えなくなり暴走する様子を私がついて行った形だけど、この二人、隙がない。
むしろ私、やる事あるかな…
『ねぇ、ネロ。今日は、私やる事あると思う?』
『あるんじゃないか?多分。』
いやぁ…ないかもしれないな。
「チヒロ、入らないのかい?」
「今行きます。」
なぜかアルバートさんとカイン君に先導されて、私は博物館の中に入った。
「まずは何から見る?」
「チヒロは何が見たい?」
え?
私の希望を聞いてくれるんですか?
「そうですね。絶滅危惧種を見に行きたいです。」
「絶滅危惧種…レッドデータアニマルズって言われているらしいね。」
なぜ知っている?
「絶滅の可能性がある生物たち。それをリストにまとめている訳か。でもさ、野生の世界は弱肉強食。滅ぶときは滅ぶんじゃないの?」
お、説明できそうなところ来たんじゃない?
「そうなんですけど、環境の変化により住む場所が奪われたり、狩りにより異常な減少をしている生物たち、本来ならいるはずのない生物によって、元々いた生物が姿を消したり…原因が人間側にある物たちを保護しよう…というのが、リスト化されている理由ですかね。」
「人間側に理由ねぇ。」
うーん。
「人間の生活が豊かになることで、今までになかった害が環境に影響を及ぼしているというか…それに、狩りにより乱獲された生物が姿を消したら、生態系も壊れてしまいます。弱肉強食は、野生の中では基本かもしれませんが、食物連鎖も自然の中では基本でしょ?三角形で表したときに食物連鎖のどこが欠けても、その三角形はキレイな形を保てませんから。」
お互いに食べる食べられるの関係は、自然のバランスの中で保たれるものだ。
「確かに、食物連鎖は、異世界にもある基本的な考え方だ。」
「じゃあ、ティエラでは食物連鎖の頂点は、人族になるって事か?」
どうなんだろう?
食べる食べられるの関係に居るのであれば、人間は頂点に居るのかな?
人間が餌として何かに食べられる現状が、今はないだろうし。
でもなぁ、これといって弱肉強食の頂点にいるとは、思えないというか…
人間単体でいたのなら、結構非力じゃない?
野生の生物を目の前にしたときに、やれることといえば、逃げる事…
その分、知恵があるから、それをフル活用して何とかするんだけど。
どうなんだろうなぁ?
「あれ?異世界では人族は、頂点じゃないんですか?」
「違うだろうね。どちらかというと人族はピラミッドの下の方にいるんじゃないかな?食べる食べられるの関係以前に力関係で。」
力関係?
「ほら、異世界にはいろんな種族がいるだろ?獣人がいたり、カインのような身体能力が優れているダンピールがいたり。人族は、知恵において優れているけれど、どの種族も知恵は必要最低限の能力だと思っている。知恵を持っていて、身体能力が優れていれば、人族よりは優れていることになるだろう?」
…確かに。
知恵を持っているだけじゃダメなんだ。
『まぁ、その点。アルバートの場合、魔法という力を手に入れて、上り詰めたわけだ。今でこそ、そこまで目立ってはいないけれど、昔は人族が虐げられた歴史もあるらしい。』
ネロの言葉に、私は言葉が詰まる。
地球では考えられないな。
人間は虐げられる種族がいないから、人間同士で争うことはあるけれど。
「それこそ、弱肉強食、食物連鎖の中に巻き込まれていた人族が、何とかして力を得たのが、魔法や錬金術といった学問だからね。」
じゃあ、もし地球でも知恵を身に付けた他の動物がいるのなら、人間はその生物に食われる立場になるのだろうか…?
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