612話 フェリシアさんが生き生きとしています
館内に足を踏み入れて、目の前に出てきたのは水槽。
水の中で生活している生き物だろうか?
「小さいし可愛いじゃん。」
リリスさんは、水槽へ駆け寄り、中を覗き込む。
プクッと膨らむ魚に同じように頬を膨らませて、その後ケタケタと笑った。
…リリスさん、あざといな。
「あっちのゆらゆらと揺れている物もキレイだし、どこに毒を持っている生物がいるの?うわぁ、これ、光っているじゃん。」
大はしゃぎのリリスさんには言えないな。
フグ、イソギンチャク、クラゲ。
おそらく全部毒を持っていますよ…とは。
大体、毒の展示会なのに、毒を持っていない生物を、毒を持っている生物と一緒にいれて置く理由って何さ。
可愛くても毒持ちなんだよ。
「あら、キュートね。…これは、どうやって調理すれば。」
こっちは、こっちで物騒。
フェリシアさんがボソッとつぶやいた言葉が、しっかりと聞こえてしまったんですけど…
食べません。
調理もしません。
毒があるって言っているでしょ。
さすが、私にトリカブトを買い物に行かせて、研究後に飲む女性…
水槽の中にいるはずの毒を持つ生き物たちが、フェリシアさんの暗黒の微笑みに耐えられず、目を離すことも出来ず、微動だにせず、フェリシアさんを見つめている。
凄い…目で制すとは、まさに、この事かもしれない。
キミたち早く逃げな…このお姉さんに食われるよ…
「これらの生き物は、どこで手に入るものなの?」
いや、知りませんって。
毒を持っている生き物をどうやって手に入れるかなんて、知っているわけがないよ。
「う、海ですかね?」
この広い海のどこかにいると思います。
よく、クラゲに刺されたってニュースになることもあるし、海岸付近に出没することもあるでしょう。
「海…」
何かを考えこんでいるフェリシアさんに、私は顔が引きつる。
え、まさか、行く気か?
いやいや、一人で行くことはないと思うけど。
「そう…チヒロの案内がないと、さすがにティエラでの移動は無理よね…」
海に毒を持つ生き物を見つけに行くことは、止めてくれたみたい。
「じゃあ、取り寄せは出来るのかしら?」
何を?
何を取り寄せる気ですか?
毒を持つ生き物を諦めるつもりはないと…?
「いや、さすがに毒を持っている生物を取り寄せるのは、ちょっと…」
怪しすぎて、私の今後の生活に支障をきたしませんか?
「あ、でもフグは食べる人がいるみたいですよ。毒を抜いて。」
「え、なんでかしら?」
その、なんで?はどこにかかっているんでしょう…
怖いから考えないでおこう。
「フェリシアったら、生き生きしているわね。」
「アニメショップに行ったときのリリスさんにそっくりですよ?」
「ウソ!?私、あんな感じだったの?」
そんなに大差はないかと…
もしかして、リリスさんも異常なテンションの上がりをしていた事に気が付いてくれただろうか?
「やばい、めっちゃ楽しそうにしているじゃない。やっぱりいいわよね。好きな空間に身を置くのって…」
あ、はい…
そうですね。
うっとりとしているリリスさんは、きっと先ほどいたアニメショップの空間を思い出しているのだろう。
確かに楽しそうではある。
それで、よしとしよう。
『フ…』
『ネロくん。笑わないで貰っても?』
『チヒロが振り回されているのは、なかなか面白いな。いままで振り回す側だっただろう?』
そうでもないと思いますけど?
確かに、異世界旅行に行ったときにやりたい放題していた記憶はある。
ミシュティでもプティテーラでも。
でも、その二つの旅行先でも、ちゃんと振り回されたし、企画宣伝課の皆といる時は、大体、振り回されていると思う。
『そんなことないって。ネロは、私に振り回されすぎて、気がついていないだけだよ。』
『堂々と俺を振り回している宣言をするな。俺を振り回すな。』
それは、無理かもしれない。
ネロといると、つい、いろいろと調子に乗っちゃうんだもの。
「チヒロ。次のフロアに行くわよ。」
「あ、はい。行きます。」
そんなことを考えていると、フェリシアさんからお声がかかる。
「行こうか。」
「…あぁ。」
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