59話 ミシュティの空気が甘い訳は…
騎士の人たちも食べ始めたことにより、量が足りなくなったため、結局厨房を借り、ネロを連れて追加料理を作るのだった。
なぜか知らないけど、メルが材料も持って来てくれていたし、それにおいしそうに食べてもらうのは作った甲斐がある。
それはいいとして。
なぜかビスクート王が厨房についてきたのである。
一国の王様に厨房越しで見つめられる経験ある?
ビスクート王が、話をし始めたら手を止め、そちらを向いて、話を聞く体制を整える、を繰り返していたら、作業しながらでいいと言われてしまった。
いやぁ、王様の話を、ながら聞きってハードル高いよ。
「…グラースはどうですか?」
唐突な質問に、意図が分からず、手が止まる。
どう、とは?
「グラースは何か言っていましたか?」
何か?
「ミシュティのことを、よくお話ししてくれました。グラースさんは、ミシュティが好きなんだろうなと思いました。」
「ほかに何か聞いていませんか?グラースのこと。」
「他に…?」
グラースさんのこと?
あ…
「何か言っていました?」
「いえ…」
王様は私を見つめ、にっこりと笑った。
目は全く笑ってないように見えるけど…
バレてますね。
「奥さんのお話をメルから少し聞きました。他は何も」
「そうですか」
あれ?ほしい答えと違ったかな。
「そのことについて、なんと?」
「え?」
「奥さんのこと聞いたんですよね?何と答えたんですか?」
えっと…
「はっきり言ってくださって構わないですよ。」
「…そのときは、異世界に行って、帰ってきていないのが奥様だと思わなくてですね…」
「はい」
逃がしてくれない…
「異世界の文化に触れて、帰ってきていないだけなのではないかと答えました。」
「それは」
グラースさんの時のように、これだけは誤解してほしくない。
「でもそれは、決して、異世界の文化がミシュティより優れているからではありません。ミシュティには、他には真似できない優れた技術や文化があります。新しいものに惹かれるのは、心理的によくあることだと思います。」
「異世界は危険ではないと?」
真剣なまなざしに私は、口をつぐむしかない。
私は、異世界の事情に詳しくないから。
だから、ここはネロに任せよう。
ネロも、それを察してくれた。
「いや、危険なところもある。独自の文化を大事にし、交流を持ちたがらない世界も実際ある。だけど、ミシュティは今回、他の世界の文化を取り入れた。しかも、ある意味、最先端の文化を。」
地球の知識が最先端って。
確かに、コスモスにつながる異世界では、最先端なのか。
なにせ、異世界転送装置がつながってないし。
「今回新たな文化を取り入れ、成功だと思ったのであれば、他の世界との交流を活発にしていけばいい。ミシュティの技術は、他の世界でも重宝される。そんなに焦る必要はない。」
ネロ…王様だから、もっと言い方…。
でも、いい事いうじゃん。
「そうですね」
ビスクート王が、甘く笑った。
…この人も顔面つよつよ属性の人だったか。
笑顔がめちゃくちゃいい。
「それにしても、新しいメニューは人気ですね。騎士たちにも、わざわざ食べさせて貰ってありがとうございます。とても喜んでいました。」
「あぁ。それは、ミシュティの食材がいいからだと思います。私のいた世界より、どの食材も甘みが強いんです。お菓子の甘さではないのですが、甘みに馴染みのあるミシュティの人たちには、合っていたのかもしれません。」
ジャガイモも大根もニンジンもきゅうりも。
どれも、甘みが強かった。
「甘みが強い…ですか?」
「はい、すごく甘みが強いんです。」
「それなら、カラメオの影響かもしれませんね」
カラメオ…噴水のなかに沈んでいた石。
「宝飴の石は食べられるお菓子の宝石。カラメオという鉱物から宝飴の石は取れるのですが、そのカラメオが甘さを周囲にバラまくんです。なので、周囲の空気は、とても甘いですね。」
へぇ…。甘い野菜たちは、そういうことなんだ。
というか、カラメオという鉱物から、宝飴の石に加工し、そこから魔力を抽出してるってこと?
すごく手間がかかってるんだ。
「見てみたいですか?」
「へ?」
「カラメオ」
え?
見せてもらえるの?
「今回のお礼です。」
見てみたい。
この、世界を作り上げた最初の鉱物。
ネロを見ると、にやりと笑って、頷いてくれた。
「見せてもらいたいです。」
カラメオ、どんなものなんだろうか。
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