57話 圧迫プレゼンは、緊張します
「はじめまして。私は、ミシュティ現王のビスクート・エデシュと言います」
「お初にお目にかかります。観光部、有間千紘と申します。」
「ネロです」
ビスクート王から、とても丁寧な挨拶を頂いてしまい、慌てて、私が知る限り、最大の丁寧さで挨拶させてもらったんだけど。
なんか、王様にしては、あまりにも、私たちに配慮してくれているというか。
もっと、こう、偉そうなものかと思った。
偉そうではなく、実際偉いんだけど。
「…グラースから、観光部の方が、ミシュティのために動いてくれていると聞きました。」
間違ってはいないんだけど…。
そんな、国のためにという大きい規模で動いたわけじゃない。
「いえ、ミシュティには、観光に来ただけなんです。ミシュティの物に興味を持ち、たまたまグラースさん達にお世話になったので、何かお手伝いできればと。」
「それでも、ミシュティのことを考えてくれたのには、変わりはないですから。」
そう言われると、なんというか、むず痒くなるね。
「チヒロ、料理の話しよ。せっかく持ってきたのに。」
「料理ですか?」
メルのキラーパスにより話は、本題になる。
そうだった、その話をしに来たんだった。
ミシュティに、箸休め料理を広げるために、王様に話をしに来たんだから。
「ミシュティで、リピーター観光客の減少があるとのことで、私たちなりに考えてみた結果、新たな料理にたどり着きました。」
「減少原因はなんですか」
…やっぱ気になるよね。
「食文化の違いによる胃もたれですね」
「胃もたれ?」
ビスクート王の眉間にしわが寄った。
ひぃ…
「ミシュティでは、甘いものを食事として、3食食べられていると思うんですが、他の世界では、そうではないところも多く、甘いものを食べ続けると、どうしても胃に負担がかかってしまうんです。そういう人たちが、積もり積もって、観光客の減少につながったのではないかと思いました。」
「それで、なぜ新たな料理を?」
目が鋭い…
圧迫プレゼンテーションしてる気分。
「私の世界に、スイーツバイキングというものがあるのですが、お菓子やスイーツの中に、甘いものではない料理を入れることで、気分を変えられたり、飽きることなくスイーツを楽しめるんです。それを、取り入れて、ミシュティにも、気分や味を変えられる料理というものを、グラースさんやメルに提案させてもらったんです。」
グラースさんとメルの方を見ると、ニコニコしながら力強く頷いてくれている。
こ、心強いね…。
「食べさせてもらえますか?」
「もちろんです」
王族が食べる料理としては、あまりにも簡素だけどね。
私の返事に、バスケットに入れていた、三品を取り出し、王様に渡そうとする。
「待って、冷めたものだとおいしくないと思う」
「大丈夫!魔力操作で保温ばっちりよ」
魔力って、なんでもありなの?
冷蔵庫いらないと思ったら、電子レンジもいらないの?
生活するうえで、便利すぎるでしょ。
お菓子をコーティングして、保存することが出来るなら、ある程度のことはできると思っていたけど、すごすぎる。
メルは、中身を出しながら、近くにいた騎士に、物を置ける台を頼んでいる。
急いで持って来てくれた騎士にお礼を言うと、楽しそうに料理三品を並べた。
改めて見て、やっぱり思うことは、オシャレではないな。
フライドポテト、じゃがバター醤油はともかく、野菜スティックだし。
もし、オッケーなら野菜をかわいくカットしよう。
ハートとか、星とか。
クッキーの型抜きで野菜を抜くのもありだね。
むしろ、そうしよう。
「これが、考えた料理…」
「お手軽に食べられるものということで」
「どうやって食べるんですか?」
「普段は、そのまま手でつまんで食べるんですけど、フォークで刺して食べていただいても…」
「へぇ…なるほど」
私が言うと、ビスクート王は、そのまま手でフライドポテトをつまみ、口の中に放り込んだ。
ん?なんか、雰囲気が…?
というか、毒味はいらないのでしょうか…。
「えっと」
私の戸惑いに気が付いたのか、フライドポテトを飲み込み、にこりと笑いかけてきた。
「おいしいですね」
「あぁ…ありがとうございます。」
じゃがバターはさすがに、スプーンを持って来てもらったが、残りの料理もビスクート王は、ぺろりと食べてしまったのである。
あまりの勢いに、作ってよかったと思う反面、腹ペコだったのかなと思った。
そして何より、王様が、きゅうりを齧ってるビジュアルは、なんだか心臓に悪い。
ミシュティの王に、箸休めメニューを無事食べてもらうことが出来た。
グラースさん達を背に、私は、一息ついたのだった。
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