472話 偶然が始まりだった
「もういいかしら?」
「そろそろ、俺たちの番が来てもいいんじゃないか?何をしているか、気になってしょうがない。」
クラト公子の肩をガシッと掴み、一方はニコニコと、一方は無表情に私たちの様子を見つめている二人。
「シン…肩から手を離してくれないか…?痛いんだけどな?」
「そうか?」
クラト公子の顔が引きつり、肩に置かれた手を振り払った。
「ちょっとは、順番待ちしてろって。俺たちも割と待ったんだからさ。」
「俺らは、さらに待っているんだが?大体、俺らを差し置いて、なんで先に挨拶をするんだ?」
「シン達が、チヒロ達と先に話し始めたら、他の人に順番が回らないだろうという、女王様たちの配慮では?」
目の前で繰り広げられる、シン王子とクラト公子の言い争いを黙って見ていると、アルビナ令嬢のげんこつが二人の頭に飛んだ。
ブラーさんは、小さく悲鳴を上げ、私は苦笑い、ネロは、ため息をつく。
「ちょっと、二人が困った顔をしているじゃない。私はチヒロとネロと話をしに来たのよ。貴方たちが言い争ってどうするの?私の時間を無駄にしないで。」
アルビナ令嬢の言葉に、クラト公子とシン王子はバツが悪そうな顔をした。
おぉ、アルビナ令嬢、相変わらず強し。
「じゃあ、僕たちはそろそろ、ここを去ろうかな。待ちきれない人たちがいるみたいだし。」
あははは…
「ブラーさん、今度コスモスに遊びに来てください。コスモスの技術も面白いと思います。」
「俺にはないのか?」
クラト公子…
「もちろん、クラト公子もコスモスに来てほしいですよ。コスモスは凄いんですから。火の街の職人さん達には、お世話になったので、コスモスに来たら、ぜひ私に案内させてください。」
「お前にコスモスの案内が出来るのか?」
「出来るように頑張ればいいんだし。」
そりゃ、まだ、コスモスに来て、そんなに長い訳じゃないけど、クラト公子達がコスモスに来る頃には、案内が出来るようになっているでしょ。
「じゃあ、楽しみにしてる。僕も異世界の技術を見てみたい。」
「火の街の発展のために、俺も異世界に行ってみるかなぁ。」
「ぜひ、待っています。ネロと一緒に。あと私の同僚も紹介させてください。」
「俺を巻き込むな。」
どうせ、二人がコスモスに来たら、ネロもルンルンしながら、案内することになるって。
「後ろの二人が、そろそろ怖いから、俺らは退散するな。」
「じゃあ、またね、二人とも。」
そうして、シン王子とアルビナ令嬢を残して、二人は去って行った。
「あの…」
「チヒロ!」
私が様子を伺うように、二人の方を向くと、ガバッとアルビナ令嬢が抱き着いてきた。
ネロは巻き込まれない様に、さっと避けていたけれど。
えっと?
「チヒロ、本当に帰っちゃうのね。」
あ…
「はい、コスモスに帰ります。」
私がそう言うと、アルビナ令嬢は、一度キュッと抱きつく体に力を入れた後、私から離れていった。
「そう。貴方たちには、本当に助けられたわ。ありがとう。」
「私もアルビナ令嬢には、お世話になりました。」
本来だったら、ここまで深く関わる予定ではなかった、プティテーラ旅行。
アスガルさんに言われて、外交パーティに参加して、そのままちょっと観光したら、コスモスに帰る予定だった。
でも、シン王子とアルビナ令嬢に出会ったことで、私とネロのプティテーラ滞在の予定が大幅に変わった。
外交パーティの日、セレーネギアの庭でシン王子と出会ったことで、全てが変わった。
二人の恋愛模様に巻き込まれまくったけれど、それでも、そのおかげで、本来なら出会わなかったはずの人たちと出会えた。
今日、お別れしてきた人たちと、出会うことが出来た。
今思うと、この人たちと出会わなかった未来が想像できない。
出会わなかったら…って思ったら、怖いと感じる。
だから、出会えて良かったし、あの時、セレーネギアの庭に行って良かった。
ほんの偶然から始まる出会いだったけれど、それを掴みとって、この人たちと出会えたことは、私にとって本当に良かったことだと思うんだ。
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