47話 やりたいことをやれば、きっと楽しい
あまりにも意外だったのか、いつの間にか、私の世界の食文化の話になってしまった。
私の食文化については、取り敢えず、置いておいて話を次に進めよう。
「先ほども話したように、ミシュティの食文化に馴染めないという人は、少なからずいると思いました。私も、甘い物は、結構好きなんですけど、3食そういう料理を食べることって、あまりないですし。あと、ミシュティの空気もすごく甘いので、胃もたれがより一層…という感じですね。」
無類の甘い物好きならば、ミシュティの環境は天国だろうけど、中途半端な甘い物好きは、多分駄目だろうなぁ。
私は、中途半端な甘い物好きだったということだね。
逆に、ネロは胃もたれしたと言いつつも、バクバクと食べていたから、甘い物好きなんだろうな。
ネロに言ったら、絶対に違うって否定されそうだけど。
そういうところ素直じゃないよね。
「観光客が減っている理由が食文化にあっただなんて…」
グラースさんとメルの空気が一気に重くなる。
えぇ?そんなに考え込まなくても。
「あの…最初にも言ったと思うんですけど、あくまで私が感じたことなので、それがすべてではないと思います。正直に言うと、私も異世界初心者で、初めての旅行なので、他の世界の文化に精通しているわけではありません。一意見として取り入れていただいた方がいいと思います」
私は、そんなにグラースさん達にこの話が刺さると思っていなくて、動揺してしまった。
観光部とはいっても、一般ペーペーの意見なんですけど。
しかも、私の感想レベルの意見。
「この世界が、観光地として盛り返すにはどうした方がいいと思いますか」
……えっと、私の話聞いてました?
異世界初心者って、言ってるでしょうが。
そんな意見求められても困るんだけど。
真剣に見つめてくるグラースさんの目に耐えられず、目を逸らす。
すると、逸らした方にメルは移動してきて、私の手を握ってきた。
「チヒロ」
ひょえ…
顔面つよつよの美少女にお願いされて、流されそうになった。
「えっと…盛り返すも何も、観光客の人数自体は減ってないですよね。減っているのは、あくまでリピーターです。」
「このままリピーターを確保できなければ、いずれ観光客は減っていきますよ。」
「私、異世界初めてで詳しくないんですけど」
「新しい知識を持っているという点で、プラスよ。それに、チヒロが初めてということは、ネロは教育係の立場でしょ?ネロは異世界の知識持っているんじゃないかしら」
「はぁ?俺を巻き込むな。」
この親子…やっぱり押しが強い。
それに、巻き込まれるネロ。
ミシュティの話をしたんだから、絶対ただでは逃がさないと、空気からひしひしと伝わってくるんですけど。
頼まれている事が、事なだけに、うかつに頷きたくないんだよな。
だって、観光客の助言とかって一歩間違えると、コスモスとの関係切れちゃわない?
私のせいで、いままで培ってきた関係を切ってしまう可能性があるのは、嫌なんだけど。
「観光客の方たちに楽しんで貰うためにいろいろ考えてきました。しかし、ミシュティの文化に馴染みづらいと言われると、他の文化を知らない私たちには、手の打ちようがありません。お願いします。私たちに、力を貸してくださいませんか。」
うぐぐぐ…どうしよう。
助けになるなら、協力したいと思っている。
でもさ、ここまで真剣に頼んでくれてるからこそ、無責任なこと言っちゃいけないって思う。
頭の中、ぐちゃぐちゃしてきた。
ポスッ
ん?
私が考え込んでいると、膝の上に何か乗っかった衝撃を感じる。
目を向けると、ネロが私の膝の上に乗って、私の方を見ていた。
ネロと目が合うと、ネロは私の目の前に飛んできて、私の頬を両手でぺチと叩いた。
「落ち着け、余計なことを考えるな。お前が助けたいと思ったのなら助ければいい。したいようにすればいい。お前が決めればいい。その方がきっと楽しい。」
ネロ…
「お前がやるなら、仕方ないから今回は俺も助けてやるよ」
その言葉に、思わず笑ってしまった。
覚えてたんだ。
じゃあ、私は、
「そんなつもりで、考え込んでいたわけじゃないし。」
こう答えるしかないよね。
というか、私は、そんなにパニックに見えたのだろうか?
どうしようもなくなっていたのは確かか。
考えることが嫌になっていたし。
絶対助けられるなんて、絶対なんてありえない。
ならば、私が助けたいと思うかどうか。
「ネロ、今度こそ一緒にやってよね」
「何言ってんだ、お前」
素直ネロからのツンツンネロね。
でも、ネロは私を見て、笑っているからそれでよし。
「グラースさん、メル。」
「はい。なんでしょうか」
「何?」
二人も優しい顔で私を見ている。
「私は、異世界初心者で、知識が薄いです。でも、何か力になれるのなら、私にお手伝いさせていただきたいです」
これは、私のはっきりとした意思表明。
グラースさんとメルは、互いに向き合い安堵の表情。
ネロは、私の肩に乗り、私の後頭部をペチっと叩いた。
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