466話 バルドル公爵とロゼ夫人
「チヒロちゃん!ネロ君!」
「ロゼ、走ると危ないぞ。」
駆け寄ってきてくれたのは、ロゼ夫人。
そして、その後ろを歩いて来てくれたのがバルドル公爵。
「ロゼ夫人。バルドル公爵。お久しぶりですね。」
「そうね。お久しぶり。突然、帰界するって話を聞いたから、驚いちゃった。」
「突然というより、元々、シン王子とアルビナ令嬢の婚約を見たら、帰ろうと思っていたんです。」
「ここまで長く、滞在する予定ではなかったな。」
もっと言うと、月の約束の終わりを見て、シン王子がアルビナ令嬢との約束を果たすところまで見たら、帰る予定だった。
シン王子とアルビナ令嬢の婚約パーティが、思ったよりも早く行われるみたいだったので、一週間ほど滞在を延ばしたのだ。
「あら、じゃあ二人をプティテーラに繋ぎとめていたのは、この世界の王子様と私たちの大切な愛娘だったという事ね。」
繋ぎとめた…って、少し大げさだけどね?
「バルドル公爵やロゼ夫人とも会えるなんて、嬉しいです。」
図書館で少しプティテーラについての歴史をバルドル公爵から教わったくらいの関わりだったから…
だけど、私は図書館で会えて良かったって思ったんだよね。
だって、バルドル公爵って、周りが言うには、頑固者で怖いっていう話だったのに、実際に関わったら、ただのアルビナ令嬢過激派の娘が大好きなお父さんだったのだから。
やっぱり、こういうモノって、実際に会ってみないと、分からないものだ。
「我が娘であるアルビナが君たちを大変気に入っているからね。それに、異世界に対して意欲を持って学んでいる者たちのことは、私としても好感が持てる。」
滞在が延び、どうせだったら、もっとプティテーラのことを知ろうと思って、太陽の街にある図書館に行ったときに、バルドル公爵と会って、世間話と調べていた歴史について教えてくれた。
昔は一族同士が仲良くなかったこととか、領土争いがあったとか。
今のプティテーラでは想像できないような歴史。
本を読んで理解するのと、実際に話を聞いて理解するのとでは、やはり理解度と解釈の仕方が全然違うと思った。
だって、五大一族の仲が悪いなんて、想像が出来ないんだもの。
「バルドル公爵に教わってばかりでしたけどね…」
「自分の世界について興味を持ってもらえることは、嬉しいことだろう?なぜなら、違う文化、歴史を歩んできた物を分かろうとしてくれるのだから。それは、手助けの一つや二つしたくなるさ。」
うん、やっぱり怖い人なんかじゃないな。
どちらかというと、自分にも他人にも厳しい人…かな?
「もう、チヒロちゃん?バルドルばかり相手にしていると、ネロ君のこと取っちゃうよ?」
そう言うロゼ夫人の方を見ると、既にネロはロゼ夫人に捕まっていて、ゲッソリとしている。
私とバルドル公爵が話している間に、二人の間に一体何があったんだろう?
「すみません。バルドル公爵とお話ししていると、勉強になるもので…つい。」
「そう?バルドルって、怖いっていつも言われているけど、チヒロちゃんは、そう思わないのね。」
「私は、公爵様としては怖いと思いますけど、バルドル公爵個人とお話しすると、あまりそう感じませんね。むしろ優しい人です。だって、わざわざ異世界から来て、ほんの数時間しか関わっていない私たちに会いに来てくださいましたから。」
怖いも何も、本来だったら、私はバルドル公爵の目に留まるはずじゃなかった人間だしね。
アルビナ令嬢と関わりがあったというだけで、バルドル公爵はわざわざ会いに来てくれるわけがないだろう…って思う。
それに、前に図書館で話した時、バルドル公爵がロゼ夫人を見つめていた顔がどうしても好きになっちゃったんだよね。
好感が持てたというか。
それ以来、バルドル公爵は怖いというよりも、そう言うイメージの方が先に出て来てしまうのだ。
こんなにも優しい顔をするんだ…と。
「そう。それならば、別にいいの。…それで、さっきの跪きは、なーに?」
…話が全くでないから、このまま何もなかったことになるかと思ったけど、そんな事は、あり得なかった。
そうだよねぇ。
周りがあんなに面白がって気にしていることを、ロゼ夫人が気にしないわけがなかったのだ。
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