465話 私が渡したいから、渡すのだ
「なるほど。それで、跪いていたのか。」
だから。結果的にそうなった訳であって、跪いたわけではないんですけどね…
「じゃあ、チヒロがしたルアル嬢にした手のキスと、ネロがした手を胸にあてる仕草は、なんだったの?」
「私の中にある王子様のイメージがあんな感じだったんですよ。ルアルさんがお姫様気分を味わいたいと言っていたので、ちょっとチャレンジしてみたんですよね。ルアルさんには、満足してもらったみたいなんですけど、私的には大丈夫だったかなぁ…って。」
「俺もラックが騎士に跪かれてみたいって言っていたから、やっただけだ。ラックには、迷惑をかけたし、世話になったからな。」
もう一度あれをやれと言われても、もう恥ずかしくて無理。
本物がわんさかといる中で、出来るわけがない。
「俺もネロに跪いて欲しいかも。」
「おい。何を言っているんだ?」
ナンナル王子…
「えぇ?だって、ラックがやって貰ったんでしょ?俺もやって貰いたいよ。」
「ナンナル王子。あの行為は、あくまでお礼の品を渡す流れで、ああなったんですって。」
「…もしかして、俺にはない?」
いっ…
おい、誰だ。
この王子の小悪魔さは、健在だぞ。
可愛い容姿を存分に使って、小首を傾げやがった。
「そうだよね。二人には迷惑かけちゃったし、俺にお礼なんて…」
「いやいや。ナンナル王子にも、用意してはあるんです。」
「じゃあ、何が問題なの?」
問題というか、そもそも本来の予定だと、王族の人たちにお礼の品なんて渡すタイミングがあるか?と、ネロと話していたんだ。
それなのに、ナンナル王子が何ともなさそうに、受け取ってくれると思わなかった。
「いえ、受け取ってもらえると思っていなくて。」
「なんで?チヒロとネロが作った物なら、俺は欲しいけど?」
そんなにまっすぐな目で見つめないでくれ。
「ナンナルには受け取ってもらえるみたいだぞ?作っておいてよかったな。」
ホントだよ。
あの時に、イメージが湧いたから、糸を買っちゃったって、軽いノリの私…
グッジョブ。
「お礼の品…私もチヒロちゃんとネロちゃんが作った物、欲しいな…なんて。」
デウィスリ夫人。
作ってはあるのだ。
ここにいる全員分。
でも、あくまでお礼の品だから…って思っていた。
押し付ける物じゃないなって。
でもさ、私とネロが、それぞれをイメージして作った物だ。
やっぱり、渡したい。
そもそも、お礼の品に対して、何を遠慮しているんだ?という気持ちになってきた。
だって、お礼じゃん?
私たちの気持ちじゃん?
王族だからって、どこか遠慮していた部分がやっぱりあったのかも。
でも、私とネロがプティテーラで感じてきたものが、このミサンガには詰まっているのだ。
渡さなきゃ後悔する。
袋に入ったミサンガたちをコスモスに持ち帰ったら、絶対に後悔する。
「デウィスリ夫人も、私たちの手作りなんですけど、貰ってくれますか?」
「もちろんよ。嬉しいわ。」
王族は怖いものだ…というのは、あくまで一般的なイメージで、私とネロがプティテーラで関わった人たちは、王族だけど大切な人達。
王族なんて、一括りにするのは違うよね。
最後の最後で、こんなふうに思うなんて…
なんだか申し訳ないな。
「じゃあ、跪いて結んでくれるの?もちろん、跪いて。」
「自分で結べばいいと思う。」
「なんで、ネロは、そんなに塩対応なのかな?」
シン王子に対しての塩対応がナンナル王子にも…
ネロも気持ちが軟化しているのかな?
その結果が塩対応って言うのも、どうかと思うが、ネロらしいと言えば、ネロらしい。
「ナンナル王子、ミサンガは最終的に自分の願いを込めて、自分で結んだ方がいいんですよ。」
「じゃあ、途中までやってよ。俺も足がいい。」
…じゃあ、ネロにやって貰うしかないな。
「ネロ。頼んだ。」
「おい。」
「デウィスリ夫人は、どうしますか?」
私は、ネロの言葉を無視して、デウィスリ夫人へと問いかける。
「私もチヒロちゃんに途中まで結んでほしいわ。その方がチヒロちゃんたちの想いがこもる気がする。」
「デウィスリ夫人が言うのであれば、喜んで。」
「やっぱりチヒロちゃんは、王子様っぽいわよ。」
デウィスリ夫人に、はっきりそう言われると照れる。
だが、私は王子様でいいのか?と思いながら、デウィスリ夫人の足元にミサンガを緩く結んだ。
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