463話 王子様と騎士様になりきります
その顔は、何かな?
何か、嫌な予感がするけれど。
「私たちも、お二人に結んで貰いたいです。」
え?
「あの二人が結んで貰ったのに、俺たちは自分でなんて、寂しいこと言わないよな?」
いや、あの…
やっぱりですか。
あの顔を見た時、何となくだけど予想がつきました。
ただ…
「アピさんとファイさんにも、私たちが付けて良いものか、悩んだんですけど。」
「ルアルもラックも悪い顔してるな。」
お二人は、なにか鞄とかにでもつけて貰えればいいか、みたいな感じで考えていたんだけど。
「いや、好きな所に付けていただいて、大丈夫なんですよ?それに最終的には、自分で結んでいただきますし。」
願い事をするときに、最後は自分で結んだ方がいいだろう。
アピさんとファイさんにも、そうして貰ったし。
「でも、私もお姫様気分を味わってみたいです。さっきの様子は、お姫様みたいで素敵でした。」
貴方は、クラト公子のお姫様になる予定だから、こんな所でよそ見をする必要はありません。
ほら、クラト公子がさっさとルアルさんをお姫様にしないから、ルアルさんが浮気をしそうですよ。
「俺も目の前に跪かれるなんて体験をしたことがなかったから、体験してみたい。跪く騎士の前に立つ主人みたいだろ?」
ラックさん…
貴方はちょっと考えが邪すぎませんか?
「ね、お願いします。」
「頼むよ。」
お二人は頼むと言いながら、顔には、面白そうだからと書かれてある。
…おい。
「いいですね…私もしてもらいたかったなぁ。」
「俺も…はぁ、やっぱりダメか。」
…うわ。
小癪な手を。
強引に押して来たかと思えば、シュンとした顔で残念がる。
「さすが観光案内人。人の機微をよく見ている。それに、チヒロが何に弱いかよく分かっているな。」
冷静な分析をしないでもらっても。
二人ともそんな性格でしたっけ?
ルアルさんって、もっとほんわかした人で、ラックさんも爽やかなお兄さんって感じだった気がしますけど…
チラリ、チラリとこちらを見ながら、様子をうかがってくるルアルさんとラックさんを見て、結局、私が折れるしかなかった。
「分かりました…じゃあ、ルアルさんには私が、ラックさんにはネロが付けさせていただきますね。」
そして、私はさりげなくネロを巻き込み、背中を叩かれたが気にしないことにした。
「アピさんとファイさんの時は、私がなんとなく足がいいかなと思ったんで足首にしましたけど、お二人はどこに?」
職人さんの手首に、アクセサリーなんてあったら、邪魔だろうし…ってことで、勝手に足首に結んでしまったんだけど、大丈夫かな。
「私も足首に結んで貰っていいですか?」
「俺も足首。」
足首の方が、確かに楽なんだろうな。
「言っておきますけど、最後に固く結ぶのは、ルアルさんとラックさんなんですからね?お願い事も考えておいてくださいね。」
こうなったら、とことんやってやるさ。
ルアルさんは、お姫様気分がいいと言っていたけど、じゃあ私は王子役でもやればいいのだろうか?
王子って、どうやるんだ?
「騎士か…」
ネロは、一言そう呟くと、スッとラックさんの足元に降りる。
あ、主人に忠誠を誓うように、ミサンガを結び、そして胸に手を当ててラックさんを見上げた。
騎士だ…
猫ちゃんのくせに、やりおる。
ラックさんもネロの行動に驚いたのか、ネロを見つめながら、目をパチクリとさせていた。
王子…王子…
あ、良い見本がいるじゃないか。
私もルアルさんの足元にしゃがみ、まずルアルさんの手を取り、私の肩へ誘導。
そして、ルアルさんが私の方に体重かけると、ルアルさんの足にスッと触れる。
王子様は、忠誠を誓うものではなく、きっと愛を誓うんだろう。
愛おしく思いながら、足首にミサンガを結ぶ。
そして、ルアルさんの方を見て、肩に乗っていた手を取り、手の甲にキスをしてみた。
奥の方から悲鳴が聞こえた気がする。
あ、やり過ぎた…?
「本当に、王子様みたいね。」
やり過ぎたかに思えたが、ルアルさんが喜んでくれているので、よしとしよう。
「ネロも騎士だったな。」
「ふん。」
ラックさんも満足してくれたらしい。
もちろん、その後に二人には、ミサンガを自分の手で固く結んで貰った。
しんみりお別れムードではなく、お互い笑いながらのお別れ。
「ルアルさん、ラックさん、ありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとうございました。いいお姫様体験でした。」
「ラック、これからもシンに振り回されるの、頑張れよ。」
「…恐ろしいことを言わないでくれないか?ネロは俺の騎士だ…と言って、からかってやろうと思ったのに。」
多分ネロは、先手を打ったんだろうな。
あぁ、私はクラト公子に恨まれないようにしないと…
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