455話 ラスボスが中央に座ってます…
目の前には、大きな扉。
いかにも、この向こうに女王様がいますといったような、両開きの扉。
「さて、行くわよ。」
「いざ、女王訪問だな。」
扉の方を見て、ニヤリと笑うアルビナ令嬢とクラト公子。
なんだか…
「敵でも討伐しに行くのか?」
二人の反応に、ラスボスのフロア前の扉にでも立っているような気分になった。
魔王討伐…ってか?
「敵?何を言ってるのよ。」
「そうだぜ。じゃあ、いざ、出陣。」
やっぱり敵を倒しに行くテンションなんだって…それ。
「あ、ちょっと…」
そして、二人はそのまま扉を開けてしまった。
こういう時って、私のタイミングじゃないの…?
開かれた扉の中に入ると、フロア奥の方に赤い玉座。
その椅子の肘かけに右ひじをつき、手の甲の上に顎を乗せて、こちらを見ている。
「え…?」
一瞬、呼吸を忘れた。
息を吸い込み、部屋の中をちゃんと見ると、フロア奥の椅子の上には女王様。
そして、フロアの中には、クヴェレ殿下やシン王子、そしてナンナル王子。
さらには、バルドル公爵やロゼ夫人がいた。
そ、揃い踏み…
「あぁ、来たか。」
そして、女王様が声を発する。
威圧感がある訳ではないのに、背中に冷や汗が出る。
透き通る声は、良く響く。
「随分、遅かったな。私を待たせるなんて、いい度胸だ。」
い…
やっぱり、待たせ過ぎたこと怒っている?
あ、アルビナ令嬢とクラト公子も一緒になって遅れているわけだから、何か言ってくれるんじゃないか?
アルビナ令嬢とクラト公子の方を向くと、そこにいたはずの二人はいなくなっていた。
ちょっとぉぉぉ?
さっきまで、私の前にいて扉を開けていたよね。
ってことは、私のチョイ前の両隣にいるはずだよね?
なぜいない?
どこに行った?
キョロキョロと目線をさまよわせると、いつの間にかアルビナ令嬢はバルドル公爵とロゼ夫人の方へ、クラト公子はシン王子たちの方へ移動していた。
そして私が、気が付いたことに気が付くと、アルビナ令嬢は手を口元へ持っていき、フフッと笑い、クラト公子は、私たちを見て、ニヤッと面白そうに笑った。
「やられたな。」
やられた…
「この私を待たせておいて、今度は、よそ見か?」
ねぇ、さっきから思っていたんだけど、この人、本当に私に会いたいと思ってくれていたの?
何か分からないが、怖いんだけど…
逃げたい。
逃げ出したいぞ…
もちろん、そんな状況が訪れるわけがなくて。
でも、さっきアルビナ令嬢とクラト公子に苦手なことを、こういう場所で顔に出す訳ないって言ったばかりだ。
負けないぞ。
心を落ち着けるように、息を吐く。
そして、中央に座っているラスボスの方を見た。
と、取りあえず、微笑んでおこう。
余裕そうに見えるでしょ。
そしたら、舐められないはずだし。
口角を吊り上げているから、死にそう。
「ほぉ…」
女王様はニヤリと笑い、椅子からスッと立ち上がる。
そして、優雅にスタスタとこっちの方へ歩いてきた…
ん?
こっちに来る?
そのことをはっきりと認識して、ギョッとする。
え、え?
いや、なんで、こっち来るの?
そして、私の前で立ち止まった。
近!?
「ここで私を見返してくるか。パーティの時も思ったが、度胸があるのかないのか、分からんな。」
度胸とか、もう知らないです…
「一緒にいる虎の子は、こういう場所に慣れていそうだがな。」
ネロって、ちゃんと虎に見えるんだ…
なんでだ?
どう見ても猫じゃないか?
異世界の虎って、こんな感じなの?
じゃあ、異世界の猫って、もっと小さいのかな?
いやぁ、どう考えても猫だよね…
と、心の中で現実逃避をし始めた。
「また、よそ見か?」
「いえ。そんなことは、ありません。」
緊張…緊張するって。
「クヴェレ達から、話は聞いたと思うが…」
女王様がスッと私の前に右手を出す。
ん?
一度、女王様の手を見て、再び女王様の顔を見た。
もしかして、握手…?
「どうした?」
えぇぇぇぇ?
握手?
手汗、手汗大丈夫かな?なんて、ファンみたいな心理に陥って、そして、手を出して待たしていることに気が付き、女王様の手を握った。
女王様の手は、思ったよりも湿っていて、ぬるっとしていて、むにゅッとしていた。
むにゅ?
そして、手の中でにゅめにゅめと動いた。
背筋がゾワッとして、思わず手を離す。
やば…失礼なことを…え?
そして、自分の手のひらにピットリとくっ付いている物体に気が付く。
手のひらの上に乗っかっている物を見つめて、カエルだと認識すると、数秒間そいつと見つめ合った。
そして…
「ひゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
手をブンブンと振り回し、絶叫した。
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