453話 今更ですが、この格好で大丈夫ですか?
舟に揺られて、セレーネギアに向かう。
「ねぇ、ここに来て思った事があるんだけど。」
「なんだ?」
私たちは、プティテーラ滞在中に何度もこのセレーネギアに訪れた。
外交パーティしかり…婚約発表パーティしかり…婚約パーティしかり。
それで気が付いた事なんだけど…
「私、こんな格好でいいのかな。」
「…はは。」
何その乾いた笑い。
「まぁ、良いんじゃないか…?」
「ちょっと、その答え方、絶対に良くないよね…?」
朝、突発的なことが起こりすぎて、全く頭が回っていなかった。
いや、そもそも、昨日の夜、セレーネギアに行くことになったタイミングで、私はドレスの事なんて考えてもいなかったから、どっちにしても、一緒かもしれない。
水馬車は、普通の舟と違って、壁があるから、着替えようと思えば着替えられるんだけど、如何せん、お迎えに来てくれた二人の前で着替えるのは、どうかと思う。
アルビナ令嬢は、まぁ、ごめんなさいを百回くらいして、良いよって言ってもらえれば、チャンスはあったかもしれないんだけど、さすがにクラト公子の前で、着替えるのはダメだということは、私にもわかる。
「いや、令嬢の前で着替えるのもなしだろ…」
「え、やっぱダメ?」
「どうして、いいと思ったんだ?」
ダメかぁ…
えーじゃあ、この格好でもいいのかな…
うーん。
「ふふ…面白い会話をしているわね。その格好で大丈夫よ。でも、私の前で着替えたいのであれば、許可するけどね?」
え?
もしかして、今の会話、全部聞こえていた?
出来るだけ、コソコソとしていたつもりだったんだけど…
「俺の前で、着替えだすのは勘弁してくれよ?」
はい、ちゃんと聞こえていたみたいです。
「着替えませんよ?冗談ですって…」
「もう少し、冗談に聞こえるようにした方がいいかもな。」
「ネロは黙っていて。」
あぁ、恥ずかしい。
穴があったら、入りたい。
…いや、穴があったら、そこで着替えるかもしれない。
「お前、変なことを考えているだろ?」
「いや、どこで着替えれば、変な女にならないか、考えていたよ。」
「…大丈夫だ。チヒロ、お前はすでに変な女だから、安心しろ。」
ちょっと、どういう事?
変な女にならない様に、考えていたって言っているでしょうが。
「その格好で、大丈夫よ。セレーネギアに行った後は、そのまま異世界転送装置に向かうのでしょう?」
セレーネギアに、どのくらい、いることになるか分からないけど、多分そうなるだろうな。
そのままセレーネギアから、異世界転送装置に直行して、コスモスへと帰る。
途中で衣装替えをすることは、ないだろうな。
だって、コスモスに一瞬で帰ることが出来るし。
コスモスに帰ったら、すぐに着替えることもできるし。
「そもそも、今日は、こちら側もドレスコードを指定しなかったわけなのだから、そんなこと心配しなくていいのよ。気にせず、招待されるといいわ。」
そう言ってもらえると、安心できるんだけど…
そういうドレスコードの指定がなかったとしても、ここまでカジュアルな服装はNGなんだろうな…ということは、分かった。
だって、私の今日の服、オフショルダーのシャツにショートパンツ、そして動きやすいスニーカー。
ザ、私服。
普段着、最高…
え、やっぱり着替えたい。
クラト公子が壁の方を向いていてくれたら、着替えられるんじゃないの?
「ダメだぞ?」
「ダメよ。」
「やめてくれよ?」
チラリとみんなの方を見ると、一斉に否定の言葉。
えぇ…ダメかぁ。
一旦クラト公子に舟を降りて貰って、私が着替え終わった後に、もう一度乗ってもらう…等いろいろ考えたのだけれど、最終的に…
「私が大丈夫って言っているんだから、大丈夫。」
という、アルビナ令嬢の言葉に説得されて、着替えるのを諦めたのだった。
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