445話 感傷に浸る暇もないんですけど?
ミサンガ作りを終えて、夜ご飯。
「さて、これでやることは終わったね。」
「あとは、明日帰るのみか。」
そうだ。
今日一日寝たら、明日にはコスモスに帰る。
「楽しかったなぁ。プティテーラ。」
「だから、振り返るのが早いだろ。」
「でもさ、実際帰るってなったら、異世界転送装置で、一瞬でコスモスに着いてしまうから、感傷に浸る時間が全くないんだよ。今浸っとかないと、せっかくの大事な気持ちを忘れてしまうでしょ。」
本来なら、飛行機とかで移動しながら、別れを惜しんだり、いろんな思い出を考えたりできるのに、全くその時間がないからな。
異動した瞬間に、既にコスモスにいて、次の仕事がやってくる。
遠ざかる景色もなければ、近づいてくる懐かしの土地というモノもない。
一瞬で移動できるって便利だと思っていたけれど、こう思うと考え物だな。
「確かに、異世界転送装置を通れば、コスモス。旅行気分は、そこで終了だな。」
「でしょ?」
いつまでも旅行気分に浸っているのも良くないと思うけど、早いよね?
エントランスで頼んだ、夜ご飯のスープを啜りながら、口を膨らませた。
すると、部屋の呼び鈴が鳴る。
私とネロは、ドアの方を一度見て、それから二人で顔を見合わせて、首を傾げた。
「こんな時間に誰だろ?」
「さぁ。」
何も約束していなかったが、何か用があったのだろうか?
そもそも、誰だろう。
朝早くに訪問してくるお客さんたちは、たくさん知っているんだけどね。
「出てみれば、どうだ?」
「そこはじゃんけんでしょ。私もご飯食べたいもの。」
「仕方ないな。じゃあ、手を出せ。」
お互い見つめ合う。
「じゃんけんポン。」
私は、グー。
ネロは…小さい手を思いっきり広げているので、おそらくパーなのだろう。
「俺の勝ちだな。さっさと、この一定間隔で鳴っている呼び鈴を止めてくれ。」
「負けたんだけど…」
一言多いよ。
今行こうと思ってた。
「もう。」
仕方なく椅子から立ち上がり、ドアの方へと歩いていく。
本当にこの一定間隔で鳴り続けている呼び鈴は何?
そんなに急かさなくても、ちゃんと出ますって。
そもそも、そこまで押して出なかった場合、不在ということを考えないのだろうか?
不在の家の呼び鈴を鳴らし続けることは、ご近所さんにも迷惑がかかるんだぞ。
「はーい。開けます。」
不本意に思いながらも、ドアを開ける。
「え?え?えぇぇぇぇぇ?」
「おい、どうした?は?」
私の声に驚き、結局ネロもドアの方へきて、ドアの前に立っている人を見る。
「やぁ、久しぶり…でいいのかな?」
そこに立っていたのは、クヴェレ殿下で…
「何をなさっているんですか?一体…」
「ちょっとお使いに来たんだ。」
クヴェレ殿下にお使いを頼んだのは、誰だよ。
ダメでしょ。
夜に王配殿下がうろうろしていちゃ。
「あの…それで、御用とは…」
いや、待って。
これ、部屋の中に招いて、話を伺った方がいいのか?
どの程度のお使いを、この人はここにしに来たんだ?
話が長いなら、ここで伺うのは失礼というモノ。
でも一言二言なのに、わざわざ部屋の中に招き入れたら、余計に気を使わせる。
ってか、王配殿下に一言二言の伝言をわざわざ持たせることなんて、ある?
あるはずない。
ここは、部屋の中で落ち着いて、話を聞くべきかもしれない。
「ネロ。部屋の中、少しだけ片付けてきて。」
今日一日中、作ったお礼の品が散乱している。
それだけでも隠してきてほしい。
それ以外は、散らかしてないし。
私の意図を察したのか、ネロは小さく頷き、部屋の中に消えて行った。
「ちょっとだけ、お待ちいただいてもいいですか?」
「あぁ、かまわないよ。私も置いて来てしまった人がいるからね。」
置いて来てしまった人?
「父さん。」
「あぁ、来たね。遅かったじゃないか。」
「父さんが、早いんですよ。」
なんでここにいるのさ。
「シン王子…」
「久しぶりだな、チヒロ。」
感傷に浸っていた私の心は、思いがけない出来事により全て霧散した。
そして、私は、この場にいるのが不自然な二人を見て、思わず苦笑いを零した。
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