440話 寂しい気持ちを洗い流します
メルたちと別れて、舟に乗り、思い出話をしながら、宿泊施設に戻って来たのがいけなかった。
私は、今、宿泊施設のベッドに倒れこみ、激しく後悔している。
「お前、本当にそんなんで、大丈夫なのか?」
「…大丈夫だもん…」
「どこがだ…」
宿泊施設の自分たちの部屋に入り扉を閉めたとたんに、ブワッと寂しい気持ちがあふれ出し、ベッドへダイブ。
ネロが呆れながら私の背中の上に乗り、ペシペシと叩いているのを感じる。
「お前さ…今後も旅行に行くたびに、こんな感じになるのか…?」
「それはその時になってみないと分かりません。」
枕に顔を埋めて、モゴモゴと言葉を発する。
背中からは、割と大きめのため息が聞こえた。
だって、そうじゃん。
ミシュティの時も、プティテーラの時も、人といい関係を築いたからこそ、寂しいと思う訳でしょ?
今後も、こんな風にいい関係が築いていけるとは、限らないと思う。
こんな事なら、律儀にお別れの日なんて作らず、そそくさとコスモスに帰ればよかったのだろうか。
「失敗したかなぁ…」
「別れを告げずに、さよならなんてしてみろ?友人を失うぞ?」
だよねぇ…
やっぱりそうだよねぇ…
分かっています。
「うぅぅ…寂しいなぁ」
「まだ帰る日でもないんだぞ。お前、本当に帰れるのか?」
帰るし…
「帰る…アルバートさんやフェリシアさん達にも会いたい…会いたいなぁ…」
「じゃあ、帰るしかないだろう。コスモスに帰らないと、あいつらには会えない。」
そんなこと分かっています。
「でもさぁ…」
「お前は、さっきから何を悩んでいるんだ。」
「悩んでいません。ただ、寂しいと思っているだけです。私の悩みは、どうあがいても解決しないのです。」
「…じゃあ、さっさと寝ろ。」
ネロは、私の相手をするのが、だんだん面倒くさくなってきたのか、私の下敷きになっている掛け布団を、引っ張り出し私の上に被せ、寝かしつけようとしてくる。
「まだ、眠くない。」
「大丈夫だ。疲れているから、きっと寝れるさ。むしろ、寝ろ。」
被せられた掛布団から、顔を出しネロの様子をうかがう。
「ネロは、どうするんですか?」
「俺は、風呂。」
そうして、ふよふよと飛んで、お風呂場の方に行こうとするネロをガシッと掴む。
「なんだ…?」
何とか振り払おうとネロの手に力を感じるが、それでも負けずに掴み続ける。
そして、諦めたのか、また布団の方に戻ってきて、ポスリとお腹のあたりに降りてきた。
「そんなに寂しいなら」
「お風呂かぁ…」
「は?」
お風呂…
そうだね。
お風呂に入ることは、必要だ。
私はニヤリと笑って、ネロの方を見た。
「な、なんだ…?」
「せっかくだし、一緒に入ろうよ。」
「は?」
久しぶりの動物の癒しをネロからもらい受けよう。
なかなか一緒にお風呂入らせてくれないし、それに、体を洗わせてくれることもない。
でも今、ネロはお風呂に入りたいみたいだし、私が洗ってあげてもいいよね。
それに、私も一日中歩き回っているわけだから、体をきれいにしたいし。
モヤモヤと悩んだときは、体を洗って、一緒に嫌な気分も流してしまえばいい。
「断る。」
「いいじゃん。アニマルセラピー。」
相変わらず、嫌がりまくりのネロをしっかりと捕まえて、私はお風呂場の方へと歩いて行った。
さっきとは違い、私の手を必死に放そうとして、ぶんぶんと振り回し、逃れようとするネロ。
「早く私を寝かせたいのなら、ネロも一緒にお風呂場で癒されようね。」
「なら、もういい。寝るな。しばらく寝なくても、生きていける。」
「やだよ。眠いもの。」
「じゃあ、寝ろ。」
お風呂入ってからね。
結局、お風呂に一緒に入り、ガクブルと震えるネロに、苦笑いをしながらも、アニマルから得られる癒しを堪能した。
「そんなに怯えられると、私が無理やり連れてきたみたいじゃん。」
「無理やりだろ…どう考えても。」
「だから、お詫びに、体をきれいに気持ちよく洗ってあげたじゃん。」
「…拷問か?」
なんでよ。
体も優しくなでながら、あわあわで洗ったんですけど?
「はぁ、もういい。男としてのプライドが、めちゃくちゃだ。」
「そう?そんな風に気にしなくてもよくない?」
「良くない。」
でもなぁ。
こう、ムスッとしながら、お風呂に浸かっているネロを見ると、ニヤニヤしてきてしまう。
そして、ネロをギュッと抱きしめて、再びネロの機嫌を損ねてしまうというのを、お風呂に入っている最中、永遠と繰り返すのだった。
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