439話 逆ホームシックにかかりそうです
クラト公子とブラーさんと別れ、火の街を歩く。
「メルとビスクートさんは、この後どうするんですか?」
このまま帰る予定なら、舟で一緒に虹の街まで行こうと思うんだけど。
「あぁ、俺たちはこの後、観光案内所にもう一度寄ろうと思っていてね。」
「観光案内所?」
今から?
なぜ?
「ルアルさんに明日の予定について、少し話をしに行こうと思って。どこか行きたいところがあれば、相談に乗りますって、パーティの時にルアルさんが言ってくれたの。」
あぁ、なるほど。
「だから、プティテーラの観光案内はここまでで大丈夫。ここから先まで付き合わせちゃうと悪いしね。」
「別に気にしませんけど。」
「私が気にするの。今日は、チヒロとネロを散々振り回した自覚あるしね。これ以上やったら、罰が当たりそう。」
振り回された…は、間違っていないかもしれないけど、罰は当たらないと思う。
火の街から、虹の街と観光案内所は逆方向にある。
「それじゃあ、火の街でお別れかな?」
「うん。今日は本当にありがとう。チヒロ達と、久しぶりに遊べて楽しかったわ。」
「私もだよ。メルと、ビスクートさんと会えるなんて。楽しかった。」
メルが私の両手をぎゅっと握る。
「チヒロ、また遊ぼうね。また会えるよね。」
「遊ぼう。また会えるよ。」
だから、私もメルの手をぎゅっと握り返した。
「まるで、今後もう会わないみたいな、別れ方をするな。」
「ほんとだよ。ミシュティとコスモスだって、異世界転送装置で繋がっているんだし、時間があれば、また会えるって。」
そんな疑いの目を向けないでくれ。
「だって、あの後チヒロ達と会えないくらい、時間なかったんだもん。」
「それは、ミシュティも、外交やらなんやらで忙しかったんでしょ?」
「そうだけど…」
こうやってメルに甘えて貰えるのも、なんだかんだ嬉しいんだよね…
これは重症かもしれん。
「そうだ。こうしよ。メルたちのやるべきことが終わって、ゆっくりできるようなったら、今度はメルたちがコスモスに来てよ。そのころには、私もコスモスを案内できるようになっているからさ。」
「私がコスモスに?」
「そう。私の仕事仲間も紹介したいかも。お世話になっている人たちだからね。」
アスガルさんには、今回会ったから…
企画宣伝課の皆を紹介できるといいな。
「チヒロとネロの仕事仲間…」
「そう。」
「わかった。そうする。コスモスに行くまでに、ミシュティをもっともっと観光地として、発展させる。」
うわぁ。
すでに、お菓子の国として、注目度が大きいのに、さらに発展したら、どんなことになるだろう。
「楽しみにしているね。」
「うん。」
メルとビスクートさんが先に舟に乗り、二人を見送る。
二人の姿が見えなくなるまで、舟の方を見つめた。
「はぁ…行っちゃったね。」
静かになっちゃったなぁ。
今日は一日中、誰かしらがいたからな。
「なんだ?寂しいのか?」
「うーん。うん。寂しいかも。」
賑やかな後の静けさ。
落ち着いた雰囲気。
この感覚は好きだけど、少しだけ寂しい。
「お前本当にこの調子でコスモスに帰れるのか?」
「うぐ…帰るよ。仕事だもん。」
「帰る日だって、具体的に伝えられてないのにか?」
「何か突発的なことがあるかもしれないじゃん。」
「そういうことを言っているから、コスモスに帰るのがどんどん遅れるんじゃないか?」
それは、本当にその通りなんだけどね?
「明後日…かなぁ。」
明日、帰る準備とお礼を一通り終わらせて、明後日に帰る。
明後日は、会える人には挨拶と共にお礼を渡して、後は、ルアルさんに任せる。
王族の人たちには、そうそう会えないだろうしね。
シン王子とアルビナ令嬢には、最後に直接会って話がしたかったけど、今ちょうど忙しい時期だもんね。
「ここに来たばかりの頃は、早く帰りたいと言って嘆いていたのが、見違えるな。」
「それは、あの時は、心細かったんだもん。」
でも、今は違う。
プティテーラにも大事なものが出来た。
分かれるのが寂しいと思うほどの大切な物が。
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