438話 別れの言葉よりも、再会を願う
「俺たちにしてみれば、初めてできた異世界の友人だからね。しかもその友人が、長らく滞在していたとなると、それはそれは、寂しい物さ。」
「帰ると言われたとき、納得と同時に、よく分からない感情が出てきたよ。」
そこまで言ってもらえると思わなかったけど…
私だって、プティテーラで半月以上も生活していたら、段々慣れてくるし、それに簡単に会えていた人達に会えなくなるのは寂しい。
帰る準備を始めないといいつつ、いざそういうことを考えると、こんなにも寂しいんだなぁ。
しっかり考えられていなかったのは、私の方かもしれない。
ミシュティの時も、経験したけど、この寂しさは何度やっても慣れない気がする。
「…そうですね。寂しいかもです。」
上手く笑えていたかな?
冗談で流してしまいたい気持ちが、なんか分かる。
あぁ、今からこれで大丈夫かな…
「それじゃあ、私たちはこれで。クラト公子、ブラーさん、今日はありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとう。チヒロ達のおかげで、色々助けられた。俺も、火の街の職人たちも。」
「私たちのおかげというより、火の街の人たちがいい仕事をするからでしょうね。自然と、人が集まるのは。」
仕事の向き合い方を見れば、何も知らない人でも目を引くよ。
こんなにも自分たちの仕事にこだわりを持っている人たちならば。
「職人として、技術を今後も磨き続ければ、自然と目に留まる機会も増えるだろう。なんだって、プティテーラは外交を開いたんだから。異世界の技術者たちが求める、技術の街になれるかもな。」
「ネロが、そこまで言ってくれるようになるとは、思わなかったな。」
「はぁ?俺は、良い物はいいとちゃんと言っているが?」
不服そうに顔を歪ませるネロに、あっけにとられたクラト公子は、笑っていた。
「なんだよ。」
「いやいや。ネロは、良い物はいいというかもしれないけど、普段素直に物事を褒めないでしょ?だから、驚いたんじゃない?」
仕方ないよね、ネロはツンデレだから。
でも、普段褒めないからこその、最大の賛辞だと思うんだよね。
「そんなことない。」
「そんなことありますよね、クラト公子。」
「そうだな、そんなことあるな。」
私とクラト公子がネロを見て笑うと、またネロの顔がムッとして、そっぽを向いてしまった。
そういう行動をとるから、素直じゃないって思われるんだと思う。
ネロらしいけどね。
「チヒロー!」
ブラーさんと話をしていたメルとビスクートさんも話が終わったみたい。
「それじゃあ、私たちも行きますね。」
「今回の滞在中で会えるのは、もしかしたら最後か?」
「挨拶出来るタイミングがあれば、嬉しいんですけど…」
クラト公子達に会えるタイミングがあるのかな?
本来だったら、そう、ほいほい会える相手じゃないよね。
「俺も二人の見送りくらいはしたいから、帰る日が決まったら、教えてくれよ。」
「どうやって…です?」
どうやって教えろと?
「宿泊施設から、報告させてもいいな…」
「それならルアルさんに伝わって、その後にクラト公子に伝わることが出来ますもんね。」
「そういう事が言いたいんじゃないが…」
違うの?
「でも、はい…わかりました。コスモスに帰る日は、前日くらいには宿泊施設にお伝えしますね。」
前日で、クラト公子が来られるかは、謎なんだけど…
「あぁ。くれぐれも無断で帰らないでくれよ?」
「そんなことしませんよ。」
そんなに信用がないのだろうか?
そんなにサバサバとした性格をしているように見えますか?
「チヒロー早く。」
「分かった。今行くよ。」
待ちきれなくなったのか、またメルが私たちを呼ぶ。
「それじゃあ、今度こそ行きます。」
「あぁ。」
「また、会いましょうね。クラト公子。」
「…あぁ。また会おうな。」
クラト公子に、一礼をしてメルたちの方に歩いていく。
コスモスに帰るときに、もしかしたら会えるかもしれないし。
それに、もしその時に会えなかったとしても、今生の別れじゃない。
また会える。
だから伝える言葉は、別れの言葉じゃなくて、また会えることを願っての言葉で。
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