43話 甘い笑顔の裏側は
「ケガはない?」
「大丈夫だよ。助けて貰っちゃって、ごめんね。」
「そんなの全然、怪我無いかちゃんと見よう。私の家に案内するから。」
怪我はないと言っても、メルの押しがあまりにも強く、お言葉に甘えて、メルの家に案内してもらうことにした。
それにしても、あの魔物が発射してきたものが、豆だったとは。
あの魔物はネロに倒され、恐れをなしたのか、一目散に逃げていった。
あの魔物がいれば、豆が採り放題ってことだよね。
「お前な、怪我をしかけたんだから、少しは気を付けろよ」
「うん。分かってる」
ネロの鋭い言葉が私へと刺さる。
分かっている。
ネロは、私が魔力を使えないのが分かっているから、守るのは当然だと思ってくれているし、メルもそのことを知ってから、妙に気を使ってくれている。
二人が私のことを考えてくれてるのは、分かっているし、実際に魔力が使えないから仕方がないことなんだけど。
せめて自分の身を守れるようにならなければ駄目だ。
そして、今、悩んでも仕方のないことだとも分かっていた。
実際に、魔物に襲われて気付くだなんて。
体験しないと、その時の気持ちって、やっぱり分からないものだな。
「ここが、私の家よ」
案内されたのは、朱色の屋根に、レンガ造りの平屋。
ドアも屋根と色を揃えて朱色。
可愛い家だな。
お菓子の家とはまた違って、いい感じの家。
「ただいま」
「おかえり」
メルがドアを開けて、家に入っていくと、奥から声がした。
「入ってきて、大丈夫よ」
メルに促され、私とネロは家の中に入った。
「おじゃまします」
「いらっしゃい、ここが私の家。それから、こっちが私のお父さん。」
「はじめまして。グラースといいます」
グラースさんは、メルと同じ、蜂蜜のような金の髪に金の瞳をしていた。
髪の毛は、癖毛のショートヘア。
優しそうな雰囲気が漂っている。
メルって、すごくお父さん似だ。
髪の毛のストーレートは、お母さん似かもしれないけど。
メルはお父さんの紹介を終えると、私たちに断りを入れて、部屋の奥の方へ向かった。
「はじめまして。コスモス観光部から来ました、有間千紘と言います。
こっちは、ネロです。」
「…よろしく。」
私たちの自己紹介を優しい笑顔で見つめてくれて、なんか照れてしまう。
「はい、どうぞ」
メルが奥の方から、飲み物を持って戻ってきた。
飲み物は、甘い炭酸水。
甘いにおいを、しばらく嗅いでなかったおかげで、胃もたれもいつの間にか平気になっている。
頂こうかな。
「メル、ありがとう。いただきます」
うん。
シュワシュワしておいしい。
冷たい炭酸水は、のど越しがいい。
飲み物を堪能していると、グラースさんから声がかかる。
「観光部の方か。ミシュティはどう?」
お菓子の国、ミシュティ。
ここで、観光部としての話をしても仕方ないし、初見の観光客としての立場から話をさせてもらおう。
「お菓子の国ってロマンがありますよね。私は、憧れていたので、来られてよかったです。建物も、木も、流れている水でさえ、すべてが、甘いスイーツで出来ている。圧巻です。」
私は、昨日、今日と見て回ったミシュティについて、思い出しながら語る。
思い返してみると、ホントにすごいよね。
かわいいし、きれいだし。
夢がある。
グラースさんは、私の答えを、頷きながら聞いてくれた。
そして、優しく微笑みながら、私に言うのだ。
「そうですか、楽しんで貰えているようなら何よりです。観光客の方達は、滞在するのがキツイと聞いたことがありますから。」
おぉ…。
グラースさんは、私があえて避けたところを、ズバッと聞いてきた。
ほのぼのと優しそうに見えて、意外と鋭い性格で、聞き出し上手のやり手かな?
この人は、私たちから情報を得ようとしている。
そう思ったとき、この笑顔が急に圧に感じた。
綺麗な人の笑顔って、迫力あるなぁ。
ネロを見ると、私を見て優しく笑っていた。
やってやれとでも言いたげな表情。
私たちも、ミシュティの情報が欲しい。
企画宣伝課の人たちに、しっかり情報を持ち帰らないといけないもの。
いいでしょう。
慣れているよ、きれいな人との圧迫面接。
そうして、私とネロは、目の前の美人親子、二人に情報戦で立ち向かうのだった。
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