429話 アピさん、メルたちの正体を知る
店の中に入り、アピさんとファイさんが人数分のお茶を出してくれる。
外観もそうだけど、相変わらず可愛らしいお店だな。
「綺麗な布…こっちは、糸ね。」
「これだけの繊維を扱っているなんて、凄いな。ここは、繊維の職人がいるお店かい?」
お店の中をキョロキョロと見回し、興奮気味のメルとビスクートさん。
「アピさんが仕立てているんですよ。」
「これ全部?」
お店にあるものすべて、アピさんが手がけた物。
そりゃ、驚くよね。
「ありがとうございます。でも、わざわざ繊維のお店に来ていただいたということは、何かお探しのものでもあるんですか?」
「いえ。モノを探しに来たわけじゃないんですけど、あの二人、異世界出身なので何かお土産にでも…と思いまして。」
「そうなんですね。私のお店を候補に挙げていただけるなんて、嬉しいです。」
本当に嬉しそうに笑ってくれるので、こっちまで嬉しくなってしまう。
「本当にここには、綺麗な繊維がたくさん置いてあるのね。」
お店をグルっと回り、メルがアピさんと私の傍に来る。
ちなみにネロは、ビスクートさんと一緒にお店を見て回って、ガイドさんをしているみたい。
「あ、ありがとうございます。」
「聞きたいことが、あるのだけれど、聞いてもいいかしら?」
「はい。もちろんです。」
アピさんは、メルの問いに全力で頷いているが、本当にいいのか?
「婚約パーティでチヒロが着ていたドレスをアピさんが仕立てたって聞いたんだけど、本当?」
「え?なんで、ご存じなんですか?」
「チヒロから聞いたの。それに、あのドレス、とても綺麗だったから、どこで買ったのかと思って…そうしたら、知り合いが作ったって言うじゃない?気になっちゃって、気になっちゃって。」
「メルさんも、あの婚約パーティに参加されていたんですね。」
参加していました…
招待もされていました。
「えぇ。まさか、あのドレスを仕立てた方が、繊維の職人だとは、思わなかったわ。服を作る本職かと思っていたもの。」
「え、あの…?」
「でも、ドレスの生地は、アピさんが作られたって事かしら…?そこから、ドレスのデザインを作るなんて…服作りは、趣味か何かでやられていたんですか?」
「あ、あ、はい。」
メルのマシンガンに、アピさんは、必死に返答している。
アピさんは、途中で思考が止まったんだろうな。
なんで、メルがパーティに参加しているかという所あたりから。
あまりにもパニックになったのか、アピさんは私の手首をグッと掴み、メルにペコリと頭を下げて、私を店の端の方に連行した。
「あの、あの、あの…」
「アピさん、落ち着いてください…」
大パニックじゃないか。
「あの、チヒロさん。お聞きしたいことがあるんですけど、メルさんとビスクートさんって、いったい何者なんですか?シン王子とアルビナ令嬢の婚約パーティに、招待されたんですよね?ただの異世界から来たご友人じゃないですよね?」
ただの…ではないか。
「なになに?内緒話ですか?」
「ひょわ…」
メルは、こっそり私たちの背後に忍び寄り、後ろからそっと声をかけてきた。
アピさんは、相当びっくりしたんだろう。
「メル、脅かさないであげてよ。」
「脅かすつもりは、ないよ。せっかくなら、私も話に入れてよ。」
メルの話をしていただけに、アピさんは、メルが見てないところで、首をブンブン振っている。
首、取れそうですけど…
「メルとビスクートさんが、婚約パーティに参加していたのか…ということが気になったみたいだよ。」
「あぁ…」
ごめんね、アピさん。
メルは、拗ねるとちょっと面倒なんです。
私が、メルにそう言うと、アピさんの口から、声なき悲鳴が聞こえたような気がした。
「あぁ、そういえば、正式な自己紹介していなかったっけ?そっか、そっか。」
「正式な自己紹介…ってなんでしょう…?」
「改めまして、私は、メルーレ。メルーレ・ドゥ・ミシュティ。お菓子の世界、ミシュティから来ました、チヒロの友人です。」
不安そうなアピさんをよそに、メルは、何事もないように言った。
そして、アピさんの動きが固まる。
「ミシュティ…もしかして、異世界の王族の方ですか?」
「メルは、ミシュティの第一王女ですね。」
「…なんか、いろいろすみませんでした…」
そして、何とか出てきたアピさんの言葉は、いろんなものを包括した謝罪だった。
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