427話 ブラーさんの身分は、内緒ですか?
太陽の街のカフェ同様、ネロが注文したものが先に届き、その後でぞくぞくとメルとビスクートさんが注文したものが届く。
待っていても仕方がないので、お互い最初の一品が届いたときに、料理に手を付け始めた。
目の前で、フレーブの皿が次々と片付いていく様子は、爽快である。
「そういえば、チヒロが婚約パーティに来ていたドレスを用意したのって、アピさん?チヒロの友人だって言っていたよね?」
「そうだよ。アピさんに、ドレスを用意してもらったんだ。アピさんは、このお店でお手伝いをしていて、普段は、繊維のお店を開いている、職人さんなんだよね。」
本当は、この後にアピさんのお店に行こうかと思っていたんだけど、今日は一日、フレーブのお店で、お手伝いかな?
「空いたお皿、片づけますね。」
タイミングよく、アピさんがテーブルの方へと来てくれた。
「アピさん。」
「どうかされましたか?」
「今日って、一日、お手伝いの日?」
私の質問の意図を理解してくれたようで、にっこりと笑い首を振る。
「違います。この後、お店に帰る予定なんです。」
「じゃあ、お店に行ってもいい?この二人に、アピさんのお店を紹介したいんだ。」
「いいんですか?ぜひ来ていただきたいです。」
じゃあ、アピさんがお店を出るタイミングで一緒に行こうかな。
ドレスの生地に興味を持ってくれていたし、メルたちに火の街の職人さんたちを紹介したかった。
お店のドアが開き、アピさんの声がお店の中に響く。
「いらっしゃいませ。」
アピさんが声をかけた相手、入口に立っていたのは、ブラーさんだった。
「ブラーさん?」
「チヒロ?なんでここに…ってなんで…ここに、いらっしゃるんですか…?」
ブラーさんは、私を見つけて、ギョッとし顔をした後に、私の前にメルとビスクートさんが座っていることを確認して、言葉尻が弱弱しくなっていった。
「あれ?ブラー公子。昨日ぶりですね。」
「ブラー公子もフレーブを食べにいらっしゃったんですか?」
「あぁ、はい。」
メルとビスクートさんは、プティテーラでの知り合いを見つけて嬉しそうだ。
「よかったら、ご一緒にいかがですか?ブラー公子とチヒロとネロは、顔見知りと聞きました。」
「お誘いありがとうございます。ご一緒させていただきますね。」
うわ…外面ばっちりではないか。
「よくやるな…」
ネロ…そう言ってやるな…
私たちの前で、外面を固めている姿を見せているのは、結構気まずそうなんだから。
その証拠に、私たちの方をギラりと睨みつけてくる。
ファイトだ、ブラーさん。
もともと四人席ということで、アピさんが椅子を一つ持って来てくれて、ブラーさんは、なんとお誕生日席。
ブラーさんは、机の上の状況に目を見開き、驚いていた。
ブラーさんもアピさんに一品を注文して、席に着く。
先ほどまで、食べる手が止まることがなかったが、ブラーさんの料理が届くのを待つのかな?
ブラーさんは、もちろんそれに気が付き、先に食べることを促す。
「せっかくのフレーブ、冷めてしまっては、美味しさが半減してしまいます。お待ちいただかなくて、大丈夫ですよ。お気遣い感謝いたします。」
このブラーさん…だれ?
私たちに、そんな言葉づかいをしたことありましたっけ?
ブラーさんの言葉に、メルとビスクートさんは、食事を再開した。
「あの、ブラーさん。」
「なんだ?」
「ブラーさん、お店を持っている職人さんだと言うことを、メルとビスクートさんに言っていませんよね。」
私は、さりでなくお誕生日席に座っている、ブラーさんに声をかける。
「言ってないけど。」
「あの…内緒なんですか?」
「あのお二方には、火の街の貴族として通しているからね。」
「ブラーさんのお店に、二人を案内しようと思ったのですが、やめた方がいいですかね?」
「あ?」
あ?ってガラ悪いって。
「ちょっと待って。どうしてそういう流れになったの?」
机の影で周りに見えない様に、ブラーさんは私の手首をつかむ。
もちろん、見えている部分は、至って普通の装い。
プロ過ぎではありませんか?
「火の街に案内するにあたって、職人さんに二人が興味を持ちまして。たとえで、私が婚約パーティに着ていたドレス一式を例に挙げたんです。そうしたら、さらに興味を持ったらしく…この後、アピさんとブラーさんのお店に寄ろうと思っていたんですが、ブラーさんは身分を隠していることを知らなくて…行かない方がいいですか?」
「そんな訳ないでしょ。」
即答…
「じゃあ、メルとビスクートさんをお店に連れて行ってもいいんですか?」
「もちろんいいに決まってるでしょ。」
そうなんだ。
あそこまで、がっちり貴族ムーブをするから、ダメなのかと思ったわ。
「分かりました。じゃあ、ブラーさんもメルとビスクートさんの対応をどうするか、考えておいてくださいね。」
そのまま、貴族っぽく振舞い続けるのか、どこかのタイミングで切り替えるのか…
私の言葉に難しい顔をしていた、ブラーさんだったが、頼んでいたフレーブが届くころには、吹っ切れた顔をしていた。
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