417話 魔水魚とフレーブの夢のコラボ
相変わらず、雫の街では、どの出店もデフォルトで魔水魚の料理が売られている。
どこで買おうかな。
舟の上から、左右に並ぶお店たちを眺める様子は、一種のアトラクションのように思えた。
「おや?お前さん達、今日はお友達も一緒かい?」
すると、道の方から声をかけてくれる人が一人。
「お前さん達、私のことを覚えているかい?」
凄く気前のいいおばちゃんだけど…
あ。
私はネロの方を向くと、ネロは、道の方へと舟を寄せて止めてくれた。
「魔水魚をおススメしてくれたおばちゃん?」
「おぉ、覚えていてくれたんだね。」
プティテーラに来たてで、まだ右も左も分からない私とネロに魔水魚とプティテーラの四大料理について、教えてくれたおばちゃん。
「もちろんです。おばちゃんには、お世話になりましたから。」
「そうかい?ずいぶん長くプティテーラに滞在しているみたいだね。どうだい?楽しいかい?」
それはもちろん、楽しい。
「はい。」
「それは良かったね。もう一度、お前さん達に会えて嬉しいよ。」
そんなの、こちらこそだ。
それに、おばちゃんが声をかけてくれたから、また会うことが出来たのだ。
おばちゃん、ありがとう。
「それで、このべっぴんさんと、イケメンは誰だい?」
おばちゃんは、私の耳に口元を寄せ、ニヤニヤ笑っている。
「あぁ、この二人は、友人なんだ。シン王子とアルビナ令嬢の婚約パーティに参加して、そのままプティテーラに滞在するからということで、二人にプティテーラを案内中なんです。」
「あのパーティに参加したのかい?それは、どこかのお偉いさん…お前さん達に、そんな友人がいたとは、驚きだね。」
あまりにも性格が豪快なため、そこまで驚いているように見えないけどね。
「メル、ビスクートさん。この方は、私とネロがプティテーラに来て、お世話になった人で、この人からプティテーラの料理について教わったんだ。」
「そうなのね。初めまして。」
「お世話になります。」
「かしこまらないで、おくれよ。」
おばちゃんは、二人の正体を知らない。
だからこそ、メルもビスクートさんも気軽に観光ができるのかもしれないな。
この二人が、身分とかにこだわりがある人たちじゃなくて、良かった。
「それで雫の街には、何を?」
「お腹が空いたから、魔水魚の料理を食べに来たんです。そうだ。おばちゃん、なにか魔水魚の料理を買わせてもらってもいい?」
「おぉ。うちの店で買ってくれるのかい?そうだね。もちろんさ。ぜひ買って行っておくれよ。」
水路の縁にお店を構え、舟の上から見えるようになっている出店は、本当に便利。
前回食べさせて貰った、魔水魚のタレ焼きも、しっかりと置かれている。
「あれ?おばちゃん。前回になかったものまで置いてある。もしかして、新作?」
「よく気が付いたね。そうだよ。観光客がどんどんと増えてきて、雫の街に訪れてくれる人も多くなったからね。魔水魚料理を増やしてみたのさ。」
魔水魚は、煮ても焼いても焙っても蒸しても生でもおいしいと言っていたけど、本当においしそう。
「俺は、この魔水魚のから揚げが食べたい。」
ネロが指したのは、魔水魚を上げた物で、確かにから揚げみたい。
「お目が高いね。先ほど揚がったばかりの物だから、出来立てだよ。」
それは、美味しそうに見えるわけだ。
から揚げからは、白い湯気が立っている。
「じゃあ、魔水魚のタレ焼きを二つと、から揚げを四つ貰ってもいいですか?」
「もちろんさ。そうだ、サービスに、これもつけてあげよう。」
おばちゃんは、注文したものをバスケットに詰めて渡してくれた後に、さらに四つ、違うものを手渡してくれた。
「火の街と共同開発中でね。フレーブの焼いた生地の中に味付けをした魔水魚を入れて、他にも野菜などを詰め込んだものさ。」
手渡されたものを見ると、確かにフレーブの生地だ。
それにこの見た目…ポケットのように中に食材を詰め込めるようになっている。
それに、手で持っているだけで分かる、パンのもちもち感。
火の街名物のフレーブの生地に雫の街名物の魔水魚が合わさるなんて、まさに夢のコラボ。
美味しくないわけがない。
「おばちゃん、ありがとうございます。」
「あぁ。会えたご縁に感謝を。プティテーラの観光を楽しんでおくれよ。」
おばちゃん…もう、ありがとう。
「はい。本当にありがとうございます。またね。」
私がそう告げると、おばちゃんは少し驚いていたが、すぐににっこりと深く笑ってくれた。
「あぁ、また会おう。」
そして、おばちゃんに別れを告げて、舟を発進させる。
「いい人だったね。」
「うん。」
手にはおばちゃんから貰ったたくさんの魔水魚料理。
「さて、お腹もすいたし、出来立てを貰ったから、冷める前に食べよう。」
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