410話 さりげなく音楽で伝える方法
パルテシオンの音楽をBGMに、会場を後にする人たちが増えてきた。
さっきまで、ゆったりと聞かせる音楽を演奏していたパルテシオン音楽隊だったが、今は、ゆったりとしつつも、終わりを告げるような音楽に切り替っている。
なんというか、こういう音楽が鳴ったら、帰らないといけないような気持ちにさせられる…
あぁ、お店が閉店の時になる、蛍の…ような、そんな感じ。
もちろん、お店の閉店といっても、今、演奏されているのは、バージョン月の宮殿とゴージャスさはあるのだけれど。
あの音楽を聴くと、お店を出ないと…と思わされるけど、今現在、会場内はそんな感じだ。
「シンと令嬢は、帰らせる気満々だな。」
「まぁ…いつまでも会場内に人がいると、主催の二人も次のことが出来ないだろうし、ある程度、時間が経ったら、こうやって帰そうとするのは正解じゃない?…というか、こういう曲が帰宅を促す音楽だと知っていたことに驚いたんだけど。」
「いや、知らないが。ただ、先ほどまで足を止めてパルテシオンの音楽を聴いていた招待客たちが、今流れている曲を聞いたタイミングで帰り始めるのは、どう考えても何かあると思うだろう?」
あぁ、なるほど。
「それに、イメージが別れを連想させる。婚約パーティで、よくこういう曲を選んだな。」
私が元居た世界だったら、ドン引き案件だろうな。
物事の裏側の意味について、本当に細かいから。
結婚式に贈るものは、偶数だといけないとか…結婚するのが二人なんだから、二つプレゼントすればよくない?と思うが、そうすると嫌な顔をされるんだよね。
別れろ…ってことかよって。
そもそも別れろ…って思っていれば、贈り物なんかしないんですけど。
そういう暗黙の了解というものがあるのが、たいへん煩わしいと思う。
それが、マナーだと言われれば、それまでなんですけどね。
卒業シーズンに、落ちる、滑る、転ぶ、等の言葉を言うのは不謹慎だ…とかね?
暗黙の了解が、世間一般的に浸透しすぎて、それが当たり前になっているわけだ。
そう思うと、異世界での生活は、今の所そう言うものがなくて楽かもしれない。
それとも、私が、気が付いていないだけで、異世界でもそう言うものがあるのだろうか?
そうだった場合、だいぶやばいんだけどね。
「それにしても、チヒロがこういう音楽に敏いとは、思わなかった。周りが帰り始めてやっと、そろそろお開きかな?とか言い出すと思っていた。」
ネロは、私のことを何だと思っているの?
確かに音楽についてはそこまで詳しくないけど。
「私の世界でも、音楽によって帰りを促されるやり方があったんだよ。学生が帰宅を促される十七時の音楽とか、あと、お店の閉店時間になると鳴り始める音楽とか。広いお店だと、従業員にさりげなく何かを知らせたりするのも音楽を利用してたよ。雨が降り出したり、何か事件があったりしたときに、流れるBGMは変わってたかな。」
「音楽で従業員同士が情報を共有していたと言う事か。」
「そうそう。お客様に知らせる必要がないけど、従業員同士には伝わる形でお店のBGMは利用されていたかも。」
お店が開店して、お客様をある程度の時間お出迎えしている時も、音楽が変わるまではお出迎えしなさいって、言われたと聞いた事がある。
「だから、音楽の雰囲気が変わった時に、なんとなくだけど、帰りを促すような音楽に変わったのかなって思ったの。まぁ、帰りを促すのは、さすがに違うとしても、これでパーティは本当に終わりですよって伝えているのかなって。」
それでも、不快にさせず帰りを促し、さらにしっかりと会場からお見送りをするパルテシオンの音楽隊には、恐れ入ったけれど。
それと、そんなことを考えたシン王子とアルビナ令嬢にも。
「さて、そろそろ私たちも帰る?アスガルさんと一旦合流できるかなぁ?」
「まぁ、ほっといてもアスガルならこっちに来るじゃないか?」
「なら、ちょっとだけ、待ってみようか。」
会場内にいる招待客の数も減ってきているし、これならば、すぐに合流できるだろう。
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