409話 芸術の世界
「これにて、プティテーラ第一王子シン・フォルモントとシュルーク公爵家令嬢アルビナ・シュルークの誓いを終え、パーティのプログラムはすべて終了とします。」
格式ばった男性が、そう告げる。
婚約パーティは、これで終わり。
「婚約パーティでのやるべきプログラムは、終了となった。皆さん、本当にありがとう。
ささやかながら、我々から余興を。」
すると、会場内に楽器を持った人たちが何人も現れる。
「音楽が有名な世界から音楽隊に来てもらった。時間が許す限り、ゆっくりとしていってくれ。」
うわぁ。
オーケストラみたい。
見たことがない楽器もある。
さすが異世界。
「あれは、パルテシオンの人たちだな。」
「知ってるの?」
「あぁ、コスモスのゲートに繋がっている音楽の世界。街中が音楽にあふれている世界だな。」
音楽の世界。
「コスモスのゲートに通じている世界で、五本の指に入るほどの芸術の街だ。パルテシオンは、その中でも音楽を愛し、音楽に愛されている世界だな。」
へぇ。
凄くいいじゃん。
「私も今度行ってみたいかも。」
「ならば、ステータスのランク上げをしっかりやることだな。」
え?
「音楽の世界なのに、ステータス上げが必要なの?危険な世界ってこと?」
「危険ではないが、初心者ランクが行くには、荷が重い世界だろうな。」
なんで?
「一概に言えないが、芸術家というのは、我が強いからだ。旅行慣れしていないペーペートラベラーが行くと、すぐに思想に飲まれ、染まってしまうというのが、コスモスの見解だな。」
そんなに影響力が強い世界なんですか…?
「言っただろ?ただ、音楽が得意な世界が、異世界において、五本の指に入るほどの芸術の世界になる訳がないんだよ。」
「じゃあ、何。」
「すごい芸術を見ると、圧倒され、心揺さぶられる…とよく言うだろ?それってすなわち、心が動かされるんだよ。演劇を見て、なぜか分からないけど、涙が出たという経験があるかもしれない。それも、自分の中の心の琴線に触れて、涙を流す。そう言う無意識なことが連続に起こってみろ?精神が死ぬぞ?」
異世界では、芸術で人が死ぬ可能性があるってことですか…?
「だから、ある程度の耐性が必要という訳だ。」
「でも、感動しちゃダメってことでしょ?なんかそれって悲しくない?」
私が、そう言うとネロは大きくため息をつく。
「感動することがいけないんじゃない。心が動いたときに飲まれてはいけないと言うことだ。」
「うーん。なんか難しいね。」
「まぁな。感覚的な話だ。俺は芸術の類には、人を操るだけの力があると思う。それを極めた者なら。」
…呪いの音楽とか、聞いた事があるけど、そう言うのって、もしかして芸術として凄すぎて、心が動かされた人が、芸術に飲まれる。
その結果を、人を操れる音楽として語り継がれたりしているのかも。
「でもさ、それならこんな所で演奏したらまずくない?」
「そこは、プティテーラとパルテシオンの間で、話が付いているだろ。それにパルテシオンは、人を操ることをメインに芸術をやっているわけではない。」
操ろうと思ってないってこと?
「音楽を愛している者たちが、音楽を利用して人を操ろうとするわけがないだろう。俺はできるだろうと思うけどな。パルテシオンの音楽はそうじゃない。」
音楽が鳴り響く。
心地の良い音色とリズム。
自然と心が温まる。
私とネロとシン王子とアルビナ令嬢。
いろんな思い出が呼び起こされる。
「うわぁ…」
「見ろ。会場内の人々がパルテシオンの音楽に足を止めている。」
パーティの終了を告げられて、会場内は帰ろうとする人と、その場にとどまる人がいたわけだけど、パルテシオンの音楽が響き渡ると、みんなその場に足を止めて、音楽に聞き入る。
「圧倒的な魅力は時に毒となる。」
私は、ネロの言葉を聞きながら、その言葉を身を持って体験することとなった。
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