393話 幸せのおすそ分け
私とネロ、アルビナ令嬢は、シン王子とアスガルさんの様子を眺める。
ニコニコしながら握手をしあう二人を見て、思わず苦笑いだ。
「でも、悪いな。令嬢。」
「謝ることないわ。シンとああいうやり取りをしてくれる人って、なかなかいないからシンも少し楽しそう。」
腹の探り合いを楽しそうと表現するのは、どうかと思うぞ?
でも、実際、アスガルさんも最初は探るようにしていたが、今では若干、空気が柔らかくなって楽しそうではある。
アスガルさんがナンナル王子に遊ばれたのも、様子を見てのことだったのかな?
そもそも、私の知っているアスガルさんが、人にただ遊ばれてそのままな訳がないよねぇ。
「仕方ないさ。アスガルは、性格が悪い。」
「すごい。ストレートな文句。」
「誉め言葉だ。」
嘘でしょ?
私が驚いて、ネロの方を見ると隣にいたアルビナ令嬢がクスクスと笑っている。
「外交に参加する人が、素直過ぎたらそれは良くないものね。確かに、誉め言葉だわ。」
それって、そういう事には向いているけど、性格はよろしくないですね…って言っているようなものじゃない?
「プティテーラにおいて、異世界の人たちの事はどうお考えなんですか?」
「そうね。今では、いろんな人たちが来てくれているけれど、あくまでお客様ね。ただ、コスモスは、取引相手でもあるし、重要なお客様ね。むしろ私たちが、もてなさないといけない立場じゃない?」
それにしても、最初の扱いはだいぶ酷かったですけどね。
思い出しても敵だらけの外交パーティは、今じゃ気にしていないとはいえ、しばらくはこの話題を擦り続けると思う。
「外交パーティの件は、申し訳なかったわね。」
「その件については、話を聞きましたので大丈夫です。」
プティテーラとアルスの関係が特別な訳ではないと、教えてもらったし。
「今日は、アルスの関係者も来ているんですか?」
「あぁ、そうね。前みたいにたくさんではないにしろ、来ているわ。」
そうなんだ。
アスガルさんもそのことには気が付いているだろうし。
柔らかい口調での腹の探り合いをした後の無言で笑い合う時間が長くないか?
「二人の様子だと、全く終わりそうもないですね。」
「婚約者の前で探り合いを仕掛けるアスガルもどうかと思うが、婚約者そっちのけで、人の上司と探り合いをするシンもどうかと思うぞ。」
「楽しそうだから、私は大丈夫よ。」
本当に寛容になりましたね。
アルビナ令嬢。
「どうかした?」
「いえ、アルビナ令嬢と初めて会った時は、凄く荒れていたなぁっと…」
シン王子に頼まれてアルビナ令嬢を追いかけた時、ドア越しから聞こえる罵詈雑言にネロと二人で顔を引きつらせたのを思い出した。
「そ、それは、忘れて欲しい過去だわ。…いえ、チヒロには恥ずかしいところばかり見られているわね。」
「そんなこと…」
ないとは言えないかもなぁ。
私がアルビナ令嬢の立場なら、穴に埋まりたいくらいには恥ずかしいもの。
「まぁ、今では丸く収まっているんだ。いいんじゃないか?」
「シンを手伝ってくれて本当にありがとう。」
シン王子を愛おしそうに眺め、その後に私とネロの方を向いてお礼を言ってくれる。
「幸せそうで何よりです。」
「何言っているんだ?これから大変になるだろ?」
「ネロは、なんでそう言う夢のないことを言うかな…」
「恋愛において夢のないことを言うのは、チヒロだろう?」
確かにそうかもしれないけど。
知り合いが幸せそうに笑っているのを見たら、嬉しくなるでしょうが。
幸せのおすそ分けは、しっかりと受け取っておかないと。
「確かに、ネロの言う通りね。大変になるのはこれから。シンも私もこれからやらなくてはいけないことが増えてくるし、背負うものも増えるでしょう。それでも、やり抜いてみせるわ。今回のパーティは第一歩よ。」
本当にたくましいな。
「あの…そろそろあのお二方を止めます?」
アルビナ令嬢のいい話が台無しなんですけど…
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