389.5話(14)クヴェレSaid 時は流れ、月は満ちる
「今思い出しても、君には勝てないよ。トリウェア。」
「そうね。あの時のクヴェレは、本当にひどかったわ。私が全部言わないと、クヴェレは何一つ言おうとしなかったものね。」
そうだな。
トリウェアのあの行動がなかったら、私は今も使用人だったかもしれない。
使用人としてトリウェアに仕えるのも好きだったけど、今はトリウェアがいて、息子も二人いる。
招待状をくれたバルドルと、背中を押してくれたロゼには、感謝しないといけない。
あの時は、バルドル様、ロゼ様と呼んでいて、使用人と主の友人という関係にいたのに、今では対等の立場で見てくれている二人。
「悪かったと思っているよ。」
「まぁ、でもその後の頑張りは評価してもいいかなと思っているわ。」
「自覚してトリウェアに好きと言わせてしまったからね。このままでは私がただの情けない人になってしまうだろう?」
「実際そうだったのだから、認めたら?」
あの時はそうだったけど、今は私にも守るものが出来た。
「私はもう情けない奴ではないからね。今は認めないよ?」
「はいはい。」
どうでも良さそうに私のことを見てくるトリウェア。
気持ちを自覚した後にも、トリウェアと私の間でひと悶着あったのだが、思い出話をしていたら、いい時間になったため、話を切り上げる。
「さて、そろそろ時間かな?」
「そうね。月の約束で婚約を果たしたのだから、しっかり結ばれて体現してもらわないといけないわね。」
シンと令嬢が月の約束を果たしたと言うのは、プティテーラでは結構噂になっている。
「そうだな。でも大丈夫じゃないか?私と君も大丈夫だったのだから。」
「私たちは…いえ、貴方が周りを振り回したのよ?」
「あれは必要な過程だった。あれがあったから、私は今、君の横に自信を持って立てるんだからな。決して無駄ではなかったよ。月の約束は。」
トリウェアはいまだに納得がいっていないようだったけど。
私もシンと同じで、この件に関してはだいぶ頑固だったから。
トリウェアも周りも、もういいと言っていたのに、私が月の約束を実現させるまでは、結婚しないと言ったから、周りが困り果てていたのを覚えている。
王妃様がすでに亡くなっており、当時の王様も引退したがっていたから。
トリウェアが私を王様の所に連れて行ったとき、とても驚かれていたが、やっと隠居できると喜んでもいた。
だから、すぐに代替わりをしようとしていた王様に向かって、待ったをかけた私は、周りをだいぶ困惑させたのだ。
いやいや、もう、娘を任せるよと言われ、丁重にお断りをして、月の約束を宣言。
「本当にあんなにも困ったお父様を見るのは、初めてだったわよ。そして、あんなにも私を押し付けようとしているとも思わなかったけど。」
「確かに。あの時の王様とトリウェアの会話は本当に面白かったな。」
「私は、全然面白くなかったけどね。」
王様にやんちゃ娘を貰ってくれてありがとうと感謝され、そして、すぐにでも婚約を果たしてくれと懇願された。
「外堀を埋めないと、クヴェレが逃げると思っていた所がとても腹立たしい。」
「いや…うん。」
トリウェアは、王様に向かって、虫を投げていたことを思いだした方がいいと思う。
そりゃ逃げるって思われるよ。
私は、王女の世話という日々のトレーニングのために慣れていたから、気にならなくなったけれど。
「まぁ、シンも自分なりの信念のもと、ここまで婚約を遅らせたのだから、そう簡単には、離れることもないでしょう。心配はしていないわ。そんなことより、クヴェレ。」
「そんなこと…って。」
「心配をする必要がないのよ。あとは、あの子たちが何とかするはずよ。私たち親が出る場面ではないわ。」
それもそうか。
ここで親が必要になるなら、今後プティテーラを治めていくことは、無理だろう。
「それで?何?」
「あの子たちのことは、ちゃんと紹介してくれるんでしょうね?」
あの子たち…
「チヒロさんとネロ君の事かい?」
「そうよ。」
「それなら、シンやナンナルがしてくれるかもしれないよ。あの二人も仲が良いみたいだし。」
「そうなの?私だけ?それなら、なおさら仲良くならないといけないわね。」
なぜ、そうなる?
一度興味を持ったら、本当に手放そうとしないんだからなぁ…
仕方ない…
話のきっかけでも作ってあげようか。
急に世界の女王が話しかけに行ったら、特にチヒロさんは逃げてしまいかねないから。
「チヒロさんと仲良くなりたいのなら、外堀を埋めることをお勧めするよ。」
「外堀?あら、貴方と似ているのね。」
そう言われて、笑ってしまう。
そう。
私とチヒロさんは、少し似ている。
壁の隅で会場を観察している様子とかね?
「そういえば、チヒロさんとネロ君。とてもきれいなボトルを紹介してくれたとリカとリオが言っていたよ。」
こうして、興味の種をまいておくのも悪くはないだろう。
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