389.5話(13)クヴェレSaid 王女様におそわれました
王女様に連れ出されて、仮面パーティの会場を抜け出す。
仮面祭の影響でどこもかしこも賑わっているが、王女様は俺を連れて歩いて行く。
「あの…」
何も話さずにどんどん先に進んでいく王女様に、大人しくついて行くしかないと思った。
そして、こんな所があるのかと思うほど、人がいないところに俺は王女様の手で連れてこられたわけだ。
歩き続けた先は、行き止まり。
王女様は、ピタリと止まると俺の手を離す。
そして、クルリと振り返ると、俺の方にグイグイと寄ってきた。
な、なんだ?
王女様によって行き止まりの方に誘導されていき、後ろがしっかり壁になったところで、王女様が満足そうにニヤリと笑い、俺を逃がさない様に壁にドンッと手を付いた。
「あの…本当に何ですか?」
「あの夜…」
あの夜?
「私のことを抱きしめた夜から、なんか変だよね?それに今日も。なに?」
「えぇ…いや、特に。」
「バルドルから何か悩みがあるって聞いたけど?解決しそうなわけ?」
解決はした。
今日、王女様と一緒にいて、俺が王女様の事をどう思っているのか、俺の中で納得した。
そして、今日だけの夢を見ることにしたんだ。
「解決はしましたよ。何で悩んでいたのかもわかりました。」
「ふーん。それで?」
それで?
「それで…?とは?」
「どう解決したのかなって。」
「…あなたは気にしなくても大丈夫ですよ。」
「私に対しての悩みでしょ?本当に関係がないわけ?よそよそしくされた事を結構気にしているんだけど?」
なんで、王女様は今日こんなグイグイとくるんだ?
いつもはこんなに踏み込んでこないだろ。
俺の中で完結したことなのに、掘り返さないでくれ。
じゃないと、溢れそうになる。
「そんな顔をして、本当に解決したの?私に言いたいことがあるって顔してる…」
王女様は、何かに気が付いているのか。
言いたいことがありそうな顔って…
どれだけ俺は王女様に思いを告げたいんだ…
でも、これはダメだろう。
「言えませんよ。ちゃんと決着はついているんです。これ以上は望みません。」
じっと見つめてくる王女様に…すべて伝えてしまいそうになる。
「ただ、もう少し欲張っていいのであれば、今日だけ…今日だけは、王女様を独り占めさせてもらえますか…?」
身分も立場も関係がない仮面祭。
今日だけ…今日だけ許してもらえるのなら…
俺は、また明日から使用人に戻ると約束するから…
王女様の顔をしっかりと見て伝えられるギリギリを告げる。
「はぁ…」
すると、王女様は無表情のまま、ため息をついた。
「今日だけねぇ?」
再び王女様の顔が目の前にぐっと寄せられた。
「今日だけなんて許さないけど?」
「え?」
「なんで今日だけなの?ずっと独り占めしていればいいじゃない。」
ん?
「何を言っているんですか?」
「だから、今日だけにする理由ある?」
なんで何事もないような感じで言うんだ。
「はぁ…あなたをずっと独占できるわけがないでしょう。」
「なんで?」
なんで?
この王女、どうにかしてほしい。
「何でも何もあなたは独占されるべき人じゃない。たくさんの人の上に今後立つじゃないか。だから、ダメです。」
「そう…でも、私も人なんだけど?アイネが願ったように、好きな人と一緒になることを願っちゃダメなの?」
「好きな人と一緒になるのはいいと思いますよ?」
「じゃあ、いいじゃん。私があんたを独り占めしても。」
…王女が俺を独り占めするのか?
「アイネだって、姫だったよね?私と何が違うの?」
「貴方を支えてくれる人と一緒になった方が…」
「あんたがしなさいよ。私のことを今まで一番支えてきたのは、貴方だよね?ずっと、ずっと、貴方が私を支えてきたのよ。」
…俺は、
「俺は使用人だからなんて、もう言わせない。私はあなたが好きよ。ずっと気が付いて欲しかった。でもそれじゃあ、ズルい気がしたわ。だから、今日しっかり告げることにするわ。」
「あの…」
「私のことをそういう風に見えないのであれば、私は諦めるしかない。私のことを支えてくれる人を探してプティテーラを引っ張っていく。でも、もしそうではないのなら、今日だけなんてもう言わせない。そんなこと許さない。どうなの?クヴェレ?」
ここに来て、俺の名前を呼ぶのか…
今日は、気持ちがごちゃごちゃとしていて忙しいな。
悩んで自覚して、今日だけと願って諦めた。
そして、俺の気持ちごと、王女様は拾っていくと言うんだ…
「全く…貴方には叶わないですね、王女様。」
「で?」
「私もあなたのことが好きです。」
「それでいいわ。」
満足そうに笑った王女様。
そして、俺の中でモヤモヤと渦巻いていたものが一気に晴れた。
「貴方は本当にすごい人ですね。」
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