389.5話(10)クヴェレSaid 俺の悩みに気が付かないのは俺だけらしい
バルドル様とロゼ様がセレーネギアにいらっしゃって、お茶の準備をしている。
そして、お二人は黙ったままじっと俺を見ている。
「あの…何か…?」
「ねぇねぇ、クヴェレ何かあったの?」
ニコニコとした笑顔で問いかけてくるロゼ様は、興味津々と言った感じだが、何かってなんだ…?
「あの…何かとは?」
「えぇ?分かっているくせに。いつもトリウェア第一だったのに、今日は先に来て私たちの相手をしているでしょ?だから、何かあったのかなって。」
「王女様のお客様を対応させてもらうことは、当然でしょう?そのうち王女様も来ますって。」
王女様の事を指摘されて、心の中はドキドキだ。
俺の様子は、はたから見ると、そんなにおかしいのか?
いつも通り振舞っているつもりだったのだけど…
「それよりもバルドル様もロゼ様もこうやってゆっくりと滞在されるのは、お久しぶりですね。」
「そうね。いろいろお互いにバタバタしていたし…でも、こうしてまた会えてお話しできることは、嬉しいわ。」
バタバタか…
王妃様のことそうだが、ロゼ様やバルドル様の家の方でもいろいろあったのだろう。
「それに、今日は用があって来たんだよ。」
「用?なるほど、しばらくしたら王女様も来ると思いますので。」
「クヴェレにな。」
俺に?
バルドル様が?
何の用だろう。
「これを渡しに来た。」
懐の中から取り出したものは、封筒だった。
「これ、なんか見覚えがあるんですけど…」
「今回は、トリウェアは、嚙んでないぞ。」
そういう事ではなく…
「どこかのパーティの招待状ですか?」
「あぁ、今度、太陽の街主催のパーティがある。そこにお前も招待しようと思ってな。」
太陽の街主催…
シャムスの仮面パーティか。
自分を隠すことで、身分関係なく参加できるパーティ。
それならば、俺が参加していることもおかしくはないけれど、わざわざバルドル様が招待状を持ってくるとは思わなかった。
「なぜ、それを俺に?」
「いや、クヴェレは今これが欲しいと思ったのだが、違ったか?」
俺が?
仮面パーティの招待状を?
なぜ?
「要らないのか?」
俺、仮面パーティの招待状を欲しいと言ったことがあったか?
でも、バルドル様は言葉や行動を通して、俺にいつも何か伝えてくるんだよな。
今回も何かあると言う事だろうか…?
「いえ…あの…いただきます…」
そう言って机の上に置かれた封筒を取ろうとした時、
「トリウェアも今回の仮面パーティに参加するらしいぞ。良かったな。」
と言われて、固まった。
王女様が、仮面パーティに参加する…?
太陽の街主催のお祭りだから、大丈夫だと思うが、それぞれ身分を隠して会うのは、王女様にとっては危険じゃないか?
俺は、参加を止めて見守った方がいいだろうか?
バルドル様は、どうして俺を混乱させるようなことばかり言うんだ。
ただでさえ、王女様の事で頭がいっぱいだと言うのに、これ以上悩ませないで欲しい。
「クヴェレがそんなにわかりやすく悩んでいるのは、珍しいな。」
「分かっているのなら、そっとしておいてください。何が何だか正直自分でも分かっていないんです。」
「何で悩んでいるのか、分かっていないのか?」
なんでそんなに驚いた顔をするんだ。
「何ですか?バルドル様は、俺が何で悩んでいるのか原因がわかると言うのですか?」
「…そうだな。もしかしたら、お前より分かっているかもしれないな。」
…今なんて言った?
俺の悩みを俺よりもバルドル様の方が分かると言ったのか?
そんなことある訳ないだろう。
「そんな疑いの目を向けるな…」
「俺の悩みを俺より分かると言われると、少し複雑なんですが。」
「こういうのは、外から見た方が分かることもあるんだよ。」
そういう事もあるかもしれないけど、自分の悩みがこうも見透かされていると恥ずかしいじゃないか。
「悩みを解決するためのアドバイスをするとしたら、お前は仮面パーティにちゃんと参加した方がいい。そうすれば、もしかしたら何か変わるかもしれないからな。」
俺が仮面パーティに参加することで、俺の悩みが解決する…
王女様を守ると言う仕事から離れてまで、俺の悩みを解決することが重要か?
「トリウェアのことを想うのであれば、絶対に参加しろ。それが、一番トリウェアのためになる。」
護衛をしないことが、王女様のためになる…
悩みを解決しない使用人は王女のためには、ならないか。
仕方ない。
パーティには参加しよう。
そして、悩みを片付けてたら、今後もしっかりと王女様も守っていこう。
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