389.5話(9)クヴェレSaid この胸の痛みは何だろうか?
「あぁぁぁぁ…」
王女様の部屋に向かいながら、王女様を抱きしめた夜のことを思い出す。
王女様は黙って、目から涙をぽろぽろと零しながら、俺に抱きしめられていた。
王女様を大切に腕の中に閉じ込める。
腕の中に納まった王女様をずっと守りたいと思った。
だけど…
「守りたいと思うのは、王女様に出会った時から、一緒だ。一体何だって言うんだ…」
俺はいったい何を悩んでいるんだ。
それにあの夜…
自分は使用人だと…言えなかった。
俺は、使用人であることに誇りを持っている。
だから、その言葉は自分の中で誇れる一つだ。
なのに、あの日、王女様に対してその言葉を言えなかったのだ。
王女様は昨夜のことを覚えているのだろうか…?
頭の中をそんなことでいっぱいにしながら歩いていると、王女様の部屋にたどり着く。
二回ドアを叩いて、返事を待つが返事がない。
まだ起きていないようだな…
「仕方ないな…」
一応声をかけておこう。
起きなければ、もう少し寝ていてもらおう。
ドアを開けて中に入ると、ベッドで横になっている王女様が目に入る。
そっと顔を覗き込んでみると、気持ちよさそうに寝ている。
昨夜、泣いたからだろうか。
目元は少し赤くなっているような気がする。
俺が王女様を部屋に送った後もここで泣いていたのだろうか…
でも、安らかに眠っている様子を見ると、ちゃんと寝られたみたいだ。
「王女様…」
「なによ。」
俺は王女様の顔を眺めていたため、気まずそうに俺を見ている王女様と目が合う。
何もしていないが、俺は慌てて両手を上げた。
「王女様、起きていたのですか?」
「寝てたけど、あんなに顔をじっと見られる視線を感じたら、目が覚めるわよ。」
「…すみません。」
起こしてしまった挙句、顔をじっと見ていたことを王女様にバレた。
これ、使用人としてはあるまじきだろう…
「別にいいわ。起こしに来てくれたんでしょ?」
「いや…あの…はい。声だけかけようかと。まだ寝てらした場合は、そのまま去ろうかと思ったのですが、結局起こしてしまいました。」
「あぁ…そういう。」
俺の方を見つつ、ベッドから立ち上がる王女様。
「あの、なにか?」
「別に。このまま起きようと思うから、先に行っていて。着替えたいし、手伝いを呼ぶから。」
「分かりました。朝食のご用意をして待っていますね。」
「よろしくね。」
優しく微笑む王女様を見て、お辞儀をして、そのまま部屋から出る。
ドアから出ると、嫌でも気が付く。
心臓が嫌なくらいに脈打っているのを感じる。
「やばかった…」
やばかった?
…やばかっただと?
何がやばかったんだ?
いままでも王女様の寝ている姿を見たことがあるだろう。
その時もこんな感じだっただろうか?
こんなにも心臓が痛かっただろうか?
「はぁ、昨日から本当におかしい…病気か?」
このままでは、また王女様と部屋の前で会ってしまう。
王女様の朝食を急いで準備しないと。
よく分からない気持ちのまま、キッチンへと向かい王女様の料理についてシェフと話をする。
やることを終えると、頭の中に出てくるのは、寝ていた王女様。
可愛かったな…
…いや、待て?
確かに可愛かったが、あの様子を思い出すのは、ダメではないか?
というか、王女様があのタイミングで目を覚まさなかったら…
考えただけでも、まずいな。
おかしい。
何がおかしいって、俺がおかしくなっている気がする。
そして、大切な主に対して、そんなことを想うなんて…
罪悪感で死にそうだ。
「はぁ…疲れた…」
朝、王女様を呼びに行っただけなのに、なんでこんなに俺は疲れているのだろう。
「仕事をしよう…」
なんでこうも手持無沙汰だと、こんな事ばかり考えるんだ。
仕事をしていれば、この胸の痛みも薄れる気がする。
そうすれば、考えなくても済む。
読んでいただき、ありがとうございます!
よろしければ、
評価、ブックマーク、感想等いただけると
嬉しいです!
よろしくお願いします!