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389.5話(8)クヴェレSaid なぜこんなにも思いを伝えるのは難しいのだろう


しばらくバルドル様に言われたことを、ずっと考えていた。

どうして俺は、使用人だと言い続けているのか。

そんなの事実、使用人だからではないのか?

でも、やっぱり何か引っかかる言い方をされた気がする。

そしてそのことを考えて、今日一日は失敗の数々、散々な日となった。


「やはり分からないな…こんなに考えても答えが出ないのなら、聞きに行くしかないだろう。」


ずっと一人で悩んでいるのなんて、時間の無駄だ。

そうして、俺は王女様の部屋へと向かう。

バルドル様は、王女様の話題が出た時に、そのことを言っていた。

つまり、王女様に関係があると言うことだと思う。

王女様との関係もなんだかモヤモヤとしていて、スッキリとしない。

原因が王女様に関係があるのだとしたら、直接、王女様の所に行って自分で確認した方が早い。

すでに辺りはだいぶ暗くなっていて、窓ガラスから入ってくる光も太陽の明るい光ではなく、月の優しい光へと変わっている。

王女様と話をすれば、この何とも言えないモヤモヤとした気持ちもスッキリとなくなるのだろうか。

王女様の部屋が見えてきた時、そこから人が出てくる。

もちろんそれは、王女様だ。


「こんな時間にどこに行くんだろう…?」


俺は、王女様の後をばれない様にそっと追いかけた。

王女様は、迷いもなくどんどんと歩き進め、誰もいない花に囲まれた庭園へとたどり着く。

この時間は、誰もいないはずだけど…王女様はこんな時間に何の様なんだろう。

庭園に設置してある椅子へと腰掛け、そっと空を見上げボーっとしている。

あんな王女様は、見たことがなかった。

一人思い更ける王女様など見たことがない。

もしかして、俺が部屋から去った後に、ああしてここを訪れていたのだろうか?


「…王女様。」


そして、王女様はただ月を見上げながら、静かに涙をこぼした。

静かに流れ落ちた一粒を合図に何かが決壊したように目から涙をこぼし続けた。

ただ無表情に月だけを見上げて。

王女様は、一人で泣いていたのだろうか。

俺は、王女様を一人で泣かしていたと言う事だろうか。

その事実が腹立たしくて、たまらない。

俺は王女様にとって頼れるほどの人間ではなかったと言う事だろうか…

悔しくなって、唇をかみ、体にも力が入る。

そして、王女様を隠れて見ていたと言うのに、盛大に音を立ててしまった。

王女様は、ビクッと体を震わせ、音がした方…俺の方を見る。


「王女様…」

「…なんだ。クヴェレかぁ…いたのなら言ってくれればよかったのに。」


そうして、俺を見つけた王女様は、また何でもないように笑った。

俺は、その顔を見たくなくて、王女様の方に近づく。

そして、流れ落ちた涙を拭う腕を取って、睨みつけた。


「なんで…」

「クヴェレ?」

「なんで、こんな所で一人、泣いているんだ!」


自分は何に腹を立てているのだろう。

でも、口から零れ落ちる怒りは止められそうになかった。

自分は使用人なのに…


「別に泣くつもりはなかったのよ…?泣きたくてここに来たわけじゃないの。外の空気を吸いたくなって…それで、ここが気持ちよさそうだったから、ここでしばらく月を眺めていたら、なんだか知らないけど流れてきたのよ。」

「つらいなら、つらいと言ってください…」

「つらい訳じゃないの。だって、どうしようもないことでしょ?」


どうして…どうして…


「でも、貴方は一人ここで涙を流していたじゃないか。」

「だから、泣きたくて泣いていた訳じゃないって、言っているでしょ。たまたま流れ落ちてきたのよ。欠伸と一緒。生理的に出たんだわ。」


どうして、思うように伝わらないのだろう。

どうして、自分の思っていることを言葉にするのは、こんなにも難しいのだろう。


「一人で泣かないでください…」


伝わらない…

うまく言葉にできない…


「クヴェレ…あなた、なんで泣いて…」


俺が…泣いている?

言いたいことが伝わらなくて、涙でも流したのだろうか…

でも、それではダメだ。

目から零れ落ちる水を拭って、王女様を見据える。

心配そうな顔で俺を覗き込んでくる王女様。


「俺の前で泣いて欲しかったんです。」

「え…?」

「うまく言葉にできません。でも、王女様が俺に隠れて気持ちを殺そうとしているところは、俺は納得が出来ません。こんな所で泣かないでください。なんで泣いているのか分からなくてもいい。でも、俺の前で泣いてください。」

「なんで…」


なんでこんなことを言っているのだろう。

でも、モヤモヤとした何かが心から消えていく。

今したいことを…王女様にしたいと思っていることを正直に言おう。

そして、椅子に座っている王女様を自分の方へと寄せ、抱きしめる。


「そうしたら、俺が王女様を抱きしめることが出来ます。王女様を一人で泣かさずに済みます。王女様を支えることが出来ます。」


俺は使用人だから…

その言葉は出てこなかった。

でも、じゃあ、俺は王女様の何なのだろう。

今は、うまくまとまらない。

でも、腕の中にあるこの感覚がとても心地よく、離したくないと思った。

読んでいただき、ありがとうございます!


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