389.5話(6)クヴェレSaid 俺の思っていることは伝わっていますか?
「パーティは、どうだった?」
パーティが終わり、王女様とバルドル様、ロゼ様と共に、帰路へ着く。
正直、参加しても何もないと思っていたが、王女様の仕事ぶりを見れたことが何よりも嬉しかった。
「私の主人は、凄くカッコよかったですね。見られて良かった。普段見られない姿を見れたことを嬉しく思います。」
「それだけ?」
ロゼ様が首を傾げるので思っていることを続ける。
「今後も主人をしっかりと見守っていきたいと思いました。王女様の使用人という役目を誇りに思います。王女様に仕えることが出来て、良かったです。王女様がプティテーラをどういう風に導いていくのか、楽しみにもなりましたし、より一層尽くしていきたいと思いましたよ。」
そのためならば、普段の行動は多少なら目をつむってもいいだろう。
やり過ぎなければ、王女様の可愛らしいイタズラだろうと流すことも、今ならできると思う。
それくらい、今日のパーティでの王女様はカッコよかったのだ。
「なぁ、クヴェレは使用人としてやる気を出していないか…」
「バルドル様、あんな姿を見たんです。やる気を出さないわけがないでしょう。」
「いや。そう言うわけではなくてだな…」
これから、もっと気合を入れていく必要があるな。
バルドル様とロゼ様と別れて、王女様と一緒にセレーネギアへと向かう。
「クヴェレ…今日、私を見てどう思った?私のああいう場面を見るのは初めてよね?」
「先ほども言いましたが、とても凛々しくカッコよかったですよ。」
「それだけ?」
ロゼ様にもそう言われたけど、他になにかあると言う事なのだろうか?
「美しかったです。あの場所に存在していたなによりも。」
「な…何を言っているの…?」
「事実を申し上げています。あの場にあるなによりも私には王女様が美しく見えました。」
あまりの凛々しさに、正直、王女様しか目に入らない位、王女様が眩しく輝いて見えた。
「それって…私のことが好き…になった…って事かしら…」
「王女様の事はもともと好きですけど?」
不思議なことを言うな。
王女様の事が嫌いなら、ここまでついて来ていないだろう。
王女様の事は、大切だ。
「…あぁそう。そうですか。ありがとう。もともと好きでいてくれて。」
「何を怒っているんですか?」
「怒ってない!」
怒っているじゃないか。
不貞腐れてしまった王女様は、馬車から窓の外を眺めている。
「王女様?」
「何?」
「もともと好きとは言いましたが、毎日、王女様の新たな一面を見られて、私は嬉しく思っていますよ。」
すると、窓の外を向いていた顔が自然と俺の方に向けられる。
「なので、元々王女様の事は大切ですが、いまはもっと大切です。そして、今日、王女様の事がさらに大切になりました。」
「それは、私が王女だからでしょ?使用人としての仕事を果たそうとしてくれてありがとう。」
ずいぶんと棘がある言い方だ。
そこに引っかかっていたのか…
「いいえ。王女様が王女様だから大切なのです。」
「だから、王女という立場だから大切という事よね。」
上手く伝わっていないな…
「違います。…なんて言えば伝わるんですかね。そうだ…あなたがトリウェア様だから大切なのです。」
「なに…を言っているの?」
顔を真っ赤にさせて言葉に詰まる王女を見る。
「これで私があなたを大切に想っていることが伝わりますか?本当に大切だと思っていることを分かってほしいのですが…?」
「分かったわ。分かった。伝わったわ。それで大丈夫よ。」
やけくそに話を切り上げようとするので、もう少し続けようとすると、しゃべれない様にと王女様の手が俺の口元を抑える。
「んんんん…」
「今はしゃべらなくて結構よ。まったく、恥ずかしいったらないわ。」
照れているのだろうか?
それを聞こうにも、口元を抑えられてしまっているため、口から出てくる言葉はすべて曇った声で何を言っているか伝わらないだろう。
口元の手を離すつもりもなさそうなので、仕方なく言葉を発することを諦めた。
王女様もまた俺の口を押えながら、窓の外に視線を向けてしまう。
セレーネギアに着くまで、馬車の中はとても静かだった。
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