389.5話(3)クヴェレSaid 幼い日々の4人
「王女様、裸足で外を走り回らないで下さい。」
王女様にしばらく仕えて気づいた事は、この王女様は、本当にめちゃくちゃな人だと言う事。
王女様に声をかけるために、部屋まで行くと、顔の目の前をブーンと羽音を鳴らしながら何かが通過する。
「王女様、虫を室内に放し飼いしないでください。」
そう言いながら、顔の前を手で払い、部屋の中に入ると、今度はカサコソと地面を動き回る物体。
「王女様…床に虫を放つのもやめてください…」
危うく踏みそうになった…
別に、部屋の中が汚い訳でもないのに、虫が動き回る状況は、一体何なのだろう。
「なんで?クヴェレは平気だしいいじゃない?」
平気ではない。
ケロッと悪びれもなく言う王女様にできれば訂正を入れたい。
そもそもだ。
万が一…億が一、虫が苦手ではなかったとしても、虫の放し飼いは勘弁してほしい。
手を払った瞬間や、歩いた瞬間にサクッと虫を殺してしまいそうなので…
「得意、不得意ではなくてですね…私が王女様の使用人になって何年か経ちますけど、少しは落ち着いてくださいよ。」
初めて出会った時よりもお互いに身長も伸び、大人になった。
だけど、トリウェア王女のお転婆ぶりは、なかなか落ち着かず、日々、使用人たちを振り回す毎日が続いている。
「クヴェレもそんなことを言うの?」
「当たり前です。」
「つまんなーい。」
椅子にドカリと座って足をバタバタさせるトリウェア王女。
「それで?クヴェレは何か用があって来たんでしょ?用件は何かしら?」
「バルドル・シュルーク様とロゼ・イーリス様が遊びにいらしています。」
「バルドルとロゼが?そういうことは、早く言いなさいよ。クヴェレもあとから来てね。」
そう言って、トリウェア王女は部屋から飛び出していった。
後から来てね…
ということは、虫がうごめくこの部屋は、もしかして俺が何とかしなくてはいけないのだろうか?
ため息をつきつつ、一度部屋を出て、虫を捕獲するべく道具を持って王女様の部屋に戻る。
何があったら、主の部屋に虫取りセットを持って、訪れなければいけないのだろうか…?
そうして、何とか虫取りを完了した。
「虫は没収させてもらおう…」
王女様の部屋を出て、客室へと向かう。
すると中から、楽しそうな笑い声と怒鳴り声が聞こえてきた。
部屋のドアをノックすると、中から入室の許可が出る。
それを聞いて、中に入ると、王女様とロゼ様は、お腹を抱えて笑っており、バルドル様が立ち上がって、眉毛を釣り上げている。
この様子から見るに、またもや王女様がバルドル様を揶揄い、それにロゼ様が乗っかって今の状況に至ると言う事だろうか。
「クヴェレったら、遅いじゃない。」
俺は、使用人という立場にいるけれど、王女様の遊び相手として、言葉遣いも立ち振る舞いも甘く見て貰っているんだと思う。
今だって、使用人なら、何もせずに、目の前の三人と同じ部屋にいることもあり得ない。
そして、王女様に対する軽口もなしだろう。
「トリウェアを呼びに行ったはずなのに、トリウェアだけが先に来たから、どうしたのかと思ったわ。」
ロゼ・イーリス様。
虹の一族の方で、雫の一族の末端だった俺と立場的に似ているが、とある社交場で王女様と意気投合。
今では、こうしてよく遊びに来るまでに至っている。
そして、なによりも王女様と同じく、やんちゃなため王女様ととても気が合い、親友という立場を確立していた。
俺が来る前に王女様とロゼ様が知り合っていたら、王女様の遊び相手はロゼ様になっていただろう。
王女様が破壊的なやんちゃ娘だとしたら、ロゼ様のやんちゃ度は、おしとやかだけど、やるときは振り切れているやばいタイプのやんちゃ度である。
まぁ、王女様と仲良くできる令嬢が普通な訳がない。
「クヴェレがいないと、こいつらは俺で遊ぼうとするから、早く何とかしろ。」
バルドル。シュルーク様。
太陽の一族の方で、王女様の幼馴染で、小さい頃から王女様に振り回されている被害者であると俺は思っている。
俺とバルドル様が初めて会った時に、涙ながらに感謝されたから。
バルドル様はとてもまじめな方で、王女様のハチャメチャな所にいつも振り回されている。
捕まえてきた虫を手渡す…中から物が飛び出してくるプレゼントを渡し、驚いているバルドル様の事を指しながら大爆笑する…ロマンス小説の音読を一緒にする…
バルドル様は、王女様にいじめられていないか心配になります…
それをすべて、真面目に受け取って、真面目にリアクションを取るので、トリウェア王女の玩具として過ごされている。
ロゼ様が加わったことにより、玩具扱い度が増しているが…
「王女様のお部屋を片付けていましたからね。」
「なんだ。トリウェアのせいじゃないか。」
俺が正直に答えると、バルドル様は、反撃のチャンスを得たとばかりに、すかさず反応する。
「なによ。バルドルにもやってあげましょうか?」
「遠慮するが、ちなみになにをしたんだ…?」
ニヤリと笑う王女に首を全力で振り、恐る恐る俺に問いかける。
「部屋の中で虫を放し飼いされていたので、それを捕獲する作業をしていました。」
淡々と告げると、バルドル様は顔を青くして口元を手で抑えた。
これが正常な反応だよな…
普通、いきなり虫の放し飼いが行われている部屋に足を踏み入れたら、驚くよな?
「面白いイタズラね。」
「そうよね。いいと思ったのに。」
「別になされてもいいですが、その場合、片付けまで自分でお願いします。ちなみに、捕獲した虫たちはもちろん没収させていただきましたので、ご了承くださいね。」
「ちょっと、私の虫たちなのに。」
すると、王女がテーブルをバンバンと叩き、抗議をしてきた。
これくらいの意趣返しは許されるだろう。
「それで、私はなぜここに呼ばれたのでしょうか?」
王女様の言葉を無視して、バルドル様に問いかけると、ニヤリと笑って懐から一通の手紙を出し、机に置いた。
「良かったな。クヴェレ。お前に招待状だぞ。」
いまだにバンバンと机を叩いている王女をよそに、バルドル様とロゼ様の顔を見て、なんだかとんでもないことに巻き込まれそうな予感がしたのだった。
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